「あと15分…もないかな、ここから教室に戻る時間考えると」

鍵はこのまま持って行ってもいっか、どうせ午後に部活あるんだし。

灯璃の気が変わらないうちにと急いで職員室まで向かって部室への階段を駆け上った。途中先に部室に向かった灯璃に追いついて、早すぎだよって笑ってた。

「じゃあ俺ギター弾くから」

ギタースタンドからギターを手に取ってパイプ椅子に座った。俺の前に灯璃が立って、歌詞の書かれたルーズリーフを見る。

「…なんかオーディションみたいで緊張するんだけど」

「あ、確かに!」

もじもじする灯璃にちょっとだけ笑ってしまった。

部室の隣は空き教室でこの時間じゃなくても基本誰もいないんだけど昼休みはもっといない。

みんなこんなに遠くまで来ようとしないから。


だから、好きなだけギターが弾けるし好きなだけ歌える。 


「じゃあいくよ」

楽譜は見なくてもわかってる。

自分が作った曲なんだ、これを灯璃が歌ったらどんな風になるんだろうってつい笑みがこぼれそうになりながら書いた。


この曲に灯璃の声が乗ったら… 


すぅっと灯璃が息を吸ったら、耳の中に訴えかけられるように異物として流れ込んで来た。

気迫に負けてギターを弾く手を止めてしまいそうになる。



こんな声も出せるんだ、灯璃。


すごいね。



何かを伝えたいのに、決して本音は言おうとしない。


だけど膨らんでいく気持ちに翻弄され、まるで叶わない切なさを紛らわすような歌だった。


“出会わなければよかった、どうせならそう言えたらよかった”



それはきっと誰かを想うラブソング。