「ねぇ藍、今からギター弾いてもい?」

髪の毛を乾かしたあとリビングに戻った。スマホをいじりながらテレビを見てるんだか見てないんだかよくわかんない藍がソファーに座ってた。

「…家でのギターは8時までだよ、今11時過ぎてるよ」

「だよね、わかってた」

「近所迷惑になるからね」

「だよねー、ご近所トラブルもう起こしたくないよね」

「そのトラブル起こした張本人が言うには軽すぎない?」

こそっと夜中ギターを弾こうと思って、ちょっとならバレないかなーってそぉっと弾いたつもりだったんだけど普通に見付かって怒られた。
音の出るものなんだからあたりまえなんだけど、がんばればイケるかと思ったけどイケなかった。

明日部活で弾くか…

ふぅっと息を吐きながら藍の隣に座った。3人掛けのソファーは2人だと余裕があって座りやすくていい。

「奏」

「ん?」

パタンと背中をソファーにくっつけ、足を組んだ。この時間何かおもしろい番組ってやってるのかな、なんて考えながら。

「…奏の曲、弾いてよ」

持っていたスマホを置いて、身を乗り出すように藍が近付いた。

「それなら今弾いてもいいよ!」

「えー、嫌だ」

「なんで?」

「恥ずかしいから」

「これから文化祭でやるのに?大勢の前でやるんだよ??」

「それとこれは違うんだよ」

大人数の前で演奏するのと藍の前で演奏するのでは、なぜか藍の前の方が恥ずかしい。

なんでかって自分でもよくわかんないけど、やっぱずっと一緒にいる藍だからかな。単純に照れ臭いって感じで。

「…でも望月さんには聴かせてるよね」

「え?」

ボソッと発した声はテレビの音で掻き消されて何を言ったのかイマイチ聞こえなかった。

「冗談だよ、絶対断るからと思って言ったんだから。最初から弾いてくれないだろうなって思ったから言ったの!」

「…最初から弾かせる気ないじゃん」

「あたりまでしょ」

藍がテレビのリモコンを俺に渡し、ソファーから立ち上がった。

「私もう寝るから」

長い髪を耳にかける仕草を見せてリビングから出て行こうとドアノブに手をかけた。

背中を向けたまま静かに聞いて来た。

「ねぇ奏…望月さん何か言ってた?」

でもその意味は俺にはわからなくて。

「…何を?」

「ううん、なんでもないの、忘れて。おやすみ」