…って、言ってみたもののもう歌わなくていいって失礼だったかな!?

私が歌ってってお願いしたようなもんだし、でもさっき笑ってたから怒ってはないよね!?

今のはよくなかったかもしれない…! 

「灯璃?」

「あ、じゃ、じゃあ!私が歌ってあげる!」

任せろ!と言わんばかりに、開いた手を胸に当ててうんと頷いた。
そんなに自信あったわけじゃないけど思わずそんなこと言っちゃって、しかもこれはこれでなんか上からっぽかった。

「いいよ、じゃあ歌って灯璃」

奏くんがギターを構え直した。

「何の曲なら知ってる?さっき俺が歌った曲なら弾けるけど、それか歌いたい曲があれば」

歌いたい曲、歌えるかわからないけど歌いたいと思った曲は1つだけあった。

テンパっていた私の頭の中にそのメロディーが浮かんで来た。

「奏くんの曲、…歌いたい!」

この道を通るたび聞いていたからもう耳に残っていて、どんな曲かは知らなかったけどメロディーを口ずさむぐらいまでは聴き馴染んでいた。

「いいけど、あれに歌詞はないよ」

「あ、えっと〜…歌詞はラで歌う!ラララ~で歌うから!」

ベンチに座ったまま体を奏くんの方に向け、ドキドキする胸を押さえながら。

「…ダメかな?」

「いいよ、じゃあ歌って」 

1(ワン)2(トゥー)3(スリー)と奏くんがカウントしたら演奏が始まる。

目を合わせて、今だよの合図にすぅっと息を吸 って奏くんの奏でるメロディーに声を乗せる。

初めは少し緊張したけど、いつも聞いていたから。


いつも気になっていたから。


いつも歌いながら帰っていたから。


初めて伴奏に合わせて歌う、ラだけで紡ぐ音楽が自分で歌っても聞いても心地よかった。


すぅーっと体中に染み渡るメロディーに、次第に感情の乗せられる声はまるで夜を翔る星たちのようで。

全部が全部しっくり来て、しっくり来過ぎて瞳を閉じてしまうくらいに。


まるで私のための曲みたいー…