「ねぇ奏くん」

「んー?」

階段を上るのに足を上げた。肩に掛けたスクールバッグに、両手をズボンのポケットに入れて前を見て。

「もう路上ライブやらないの?」

先に上がっていたはずの灯璃を追い越した。

足を止めて、全く上って来る気配もなく下から俺に呼びかけた。

だから振り返って灯璃の顔を見た。

「灯璃が来てくれるならやろうかな」 

笑ったつもりだった。

そんな夜がまたあればいいかなって。

誰もいない駅前の広場で、ギターを弾くのは好きだから。


それに灯璃がいてくれるなら。


もっと楽しいだろうなぁって…

でも灯璃は笑ってなくて、もの寂しそうに瞳を潤ませた。

「じゃあ、もうできないね」

灯璃も…笑ったつもりだったのかな。

でも全然下手で、泣きそうな表情だった。

「灯璃…」

必死に口を開いて笑おうとしてることだけわかった。

「なんでそんなこと言うの?」

そんな顔をされたら俺まで悲しくなる。

「どうして?奏くんこそ、なんでそんなこと言えるの?」

どうして?って聞きたいのは俺の方なのに。

灯璃の中で何が変わっちゃったんだろう。