「灯璃」

読めないと言っていた楽譜を見ながら壁に寄りかかっていた隣に同じように壁に背中を付けた。

「…はい」

なんだろうこの感じ、全然こっちを見てくれないし声にもハリがない。
しかも“はい”って、そんな返事灯璃らしくない。

「あの」

「あ、私ちょっとトイレ行って来ていい!?」

「え、あ…いいよ」

「ごめんね、行って来るね!」

楽譜を持ったまま部室から飛び出していった。

タタタタタッと走る灯璃と足音が遠くなっていく… 


やっぱ気のせいじゃないよね?

俺、灯璃に避けられてない??


さっき歌詞のことで灯璃の方を見た時もおかしかったんだよ。

あんな視線が迷子になることあるかなぁ。

ただ単に歌詞が思い付かないってだけじゃないと思うんだよ。

「……うーーーーーん」

また腕を組んで眉間にしわを寄せちゃった。

目をつぶるのは癖みたいなもんだ。


なんで避けられてるんだろう?

避けられるようなことしたかな?

テスト期間中であんまり会ってなかったのに… 


あっ!!


パチッと目を開いた。

解決できそうな原因が思い付いたから。


もしかしてちょっと会わない間に人見知り発動したのかも…!?