「おはよう望月さん」

「あ、わ!折原さん!?お、おはよう!!」

「…何?そんな脅かしたつもりはないけど」

ずっと下を見ながら歩いて来たから下駄箱に折原さんがいることに気付かなかった。

長い髪を左手で押さえながら履いて来たローファーをスリッパに変えていた。

「下見てたからっ、見てなくて、びっくりしちゃって!」

「ふーん…まぁいいけど」

そうか、奏くんとは会わなくても折原さんとは会うよねそれも毎日ね。同じクラスだもんね。

「昨日…」

「え?」

「鍵ありがとう」

「あ、うん!全然!」

あれはただ机の上にあったやつをただ持ってただけだけど、私が見付けたとかそんなんじゃなくて…


奏くんが忘れて行ったのかなって思ったから。

奏くんに渡してあげたら、喜ぶかなってそんな打算的な考えをしてただけ。


「望月さんと奏ってどうゆう関係なの?」

折原さんが私の前に立った。

背が高いから、どうしても圧倒されてしまう。

「1学期は全然関わりなかったよね」

「え、あの…っ」

「夏休みの間に何かあったの?」

「…っ」

全然隠すようなことじゃない。
曲のことだって駿ちゃん先輩にサラッと言ってたぐらいだから、本当は言ってもいいのかもしれない。


だけど…


“あれは路上でしかやらないから、だから灯璃しか知らない曲だよ”

わかってる、言いたくないなんてずるいかもしれないってこと。


折原さんによく思われてない理由があるってこと、ただ聞きたくないだけだよ。


私を拒む理由、そんなの…



「私、奏の婚約者なの」