「いやーーーっ、よかった!よかったよ、奏の曲!」

文化祭は奏くんの曲披露で決まった。

駿ちゃん先輩が興奮気味に話していて、大きな声を響かせながら部室を出た。

今日は奏くんの曲を聴いて、音合わせをしていたら部活が終わっちゃった。

「奏が曲作れるなんて知らなかったんだけど!もっと早く教えてくれりゃよったじゃん!」

「だって聞かれなかったから」

「聞いてはないけどな!」

「自分の曲とか恥ずかしいじゃん、学校でやるの」

「照れ屋さんかよっ」

1番上の部室から玄関入り口まではなかなかに遠くて、何より多い階段をみんなで1階まで降りた。

「でもすげぇいい曲だったよ!俺楽しみだもん、文化祭でやるの!」

学校ではやらないって言ってたけど、駿ちゃん先輩も知らないぐらい弾いたことなかったんだ…


奏くんの曲。

じゃあ本当に私だけが知っていたのかな。

 
「あとさ!灯璃ちゃんの歌!」

階段を降りながら駿ちゃん先輩が振り返った。

「めっちゃくちゃよかったっ!!!」

新曲を合わせる前に、こないだの曲が聴きたい!って言った駿ちゃん先輩の前で少しだけ歌った。

あの駅前でいつも奏でていたあの曲を。

「あ、ありがとうございます!」

「俺感動しちゃったよ!ブルスカ聞いた時も上手いなとは思ったけど奏の曲で歌う声は全然違った!」

危な気なく後ろ向きで階段を降りながら、パァーっと目を大きくさせる。

「なんつーの?唯一無二!的な??こんなに奏のギターにバシッとどストライクな声ってあるんだなって!お互いにお互いを引き立たせてるっていうの?なんかとにかくすごかったわ!」 

ありがたいことにペラペラとお褒めの言葉を言ってもらえて嬉しかったんだけど、恥ずかしくて。

「やっぱ映像より生だな〜!あれは雑音も入ってたし今日のと全然違う!すっげぇ刺さったわ、文化祭ワクワクしてきたもんな!!」

なんてゆーかそこまで褒めてもらえるとは思わず、ただ照れるしかできなかった。今まで生きてきた人生そんなことないから、愛想笑いしてるみたいになってしまった。

「歌超上手いね!!」

ぺこりと頭を下げて、笑って返した。
我ながら何のおもしろみもない、ほんとに。

奏くんと駿ちゃん先輩の後ろをついて階段を降りた。
1階まで来たら今度は渡り廊下をひたすら真っ直ぐ歩いて、向かいの校舎に入って、右に曲がって…

「あ、俺部室の鍵返してくる」

部室の鍵を閉めたら鍵は職員室に返しに行かなくちゃいけない、奏くんが鍵をちゃりんと見せた。

「おー、おっけ!じゃあ玄関で待ってるわ」

「いいよ、先帰ってて。校門出たら帰る方向逆なんだし」

私も駿ちゃん先輩も奏くんとは反対方向へ帰る、だから一緒に帰れるのは校舎から出た校門まででちょっとだけ寂しいなって思ってた。

でもそれぐらいで、そんなに気にしてはなかったんだけど。