「もらっていい?それ」

「あ、うん!ごめん、はいっ!」

折原さんの手の上に鍵を置いた。 

きゅっと握りしめた鍵を折原さんがスクールバッグの中に入れる。


本当にあれは折原さんのなんだ…


「お疲れーーーーーっ!!」

壊れるんじゃないかってぐらい思いっきりドアを開けて駿ちゃん先輩が入って来た。

それとは反対に折原さんは部室から出て行こうと開いたドアの方へ向かった。

「あれ?藍ちゃん帰るの?」

「はい、今日は用事があるんで」

「そっかー、じゃあまたね!ばいばい~!」

「さようなら」

駿ちゃん先輩がヒラヒラ手を振るのに対してぺこりと頭を下げて折原さんは出て行った。

あぁ、しまった…
私もばいばいって言えばよかった。

でも、なんとなく声が出なかったから。

「奏はまだ?」

「あ、はい!来てない…と思います!」

あれ、でも部室の鍵は開いてたよね?
部室の鍵は部長の奏くんが開けるって…

「駿二、お疲れ」

「おっ、奏!遅くね?何してたの?」

「喉乾いたから飲み物買いに下の自販まで行ってた。でも1回来たよ、部室開いてたでしょ?」

抱えるようにペットボトルを持って来た奏くんが1本駿ちゃん先輩に渡した。そのまま今度は私の方へやって来た。

「灯璃もお疲れ様」

「あ、ありがとう」

はいっとペットボトルを渡された。キンキンに冷えたお茶だった。

「めっちゃ冷えてない?」

「うん、すごく」

「これ来賓側の玄関の自販機で買ったんだけど、あそこの自販機壊れてるから超冷えるの!」

うちの学校は私たちが普段出入りする玄関とは別のところに、来賓専用の玄関がある。

校舎塔も別だからそっちへ行くことはほとんどなくて、私も用がないので行ったことがない。

「知ってた?」

そんな子どもみたいに言われると、心臓を掴まれたみたいに目が離せない。

それだけで高まっちゃうんだもん。

「…ううん、知らなかった」

そしたら奏くんはまた笑って、今度は柔らかい表情で、…もう何も言わないの。

私の目を見つめるだけで。