「それで藍ちゃんが候補曲いくつか考えて来てくれたから!」

これがマネージャーか…!と思わされる手際の良さでスクールバッグから印刷して来た数枚の楽譜をサッと取り出した。

「藍ちゃんいつもありがとね!」

まず駿ちゃん先輩に、私に、そして…


「奏!」


ハッキリ名前を呼んでいた。

「ありがとう、藍」

初めて奏くんの名前を呼んだのを聞いたから。

「奏、この曲知ってる?」

「ん、どれ…」

「3曲目の、これ」

「あっ、知らない!」

「それ知ってるテンションでしょ」   

折原さんが笑った声がした。
 
可愛い声だった、そんな笑い声なんだ… 

クールでカッコいいなって思ってたけど、そんな風に笑うんだ。

笑うところも初めて見たな。


私だけじゃなかったんだ。

名前で呼んでるのも、ラフに話してるのも、私だけじゃなくて。


むしろ折原さんの方が… 

「きっと奏好きだよ、この曲」


奏くんを知ってるみたいだ。


そうだ、2人は幼馴染みだもんね。

あたりまえだよね。

勘違いしそうになった自分が急に恥ずかしく思えた。


「藍が言うならそうかなぁ?」

軽音部じゃないって言ってたけど、いつも来てるって言ってたもんね。私より全然仲良いに決まってるよね。

「なんでそこ疑問形なの?」

「だいたい藍の言うこと聞いとけばいいかなって」

「何よそれ」

楽しそうに笑い合って。

2人の会話を聞きながら、聞こえていないフリをした。

もらった楽譜から目を離せなかった。