「ねぇねぇ灯璃、さっきの話なんだけど」

「さっきの話?」

「うん、バイトしてて夏休み行けない日があったんだけど」

「え?」

右手を立ててこそっと話す奏くんに耳を傾ける。


バイトしてて夏休み行けない日があった…?

夏休み行けない日がー…


「あっ!!」


それは夏祭りがある前の2日間、いつもの駅前のベンチにいなかった。

約束はしてなかったし、そんな日もあるかと思ってたけど…

「バイトで路上ライブ来なかったの!?」

謎が解けたみたいにスッキリしちゃって声が大きくなってしまった。

「え、路上ライブ?」

今日の活動をすることがなくなった駿ちゃん…先輩がホワイトボードに絵を描いていた手を止めて振り返った。

「って何??」

眉を寄せてこっちを見る駿ちゃん先輩は路上ライブのことを知らないみたいだった。 

え、これってどーゆう…

不安になって奏くんの方を見た。


人差し指を立てて唇に当てた。

しーっと、私だけに向けて。 


「…っ!?」


えっと、それは…

えっと…

秘密ってことでいいのかな!?


私と奏くんの、秘密ってことで…


「路上ゴミ拾いのバイトって時給いくらかなって」
 
「それボランティアだろ!」

「じゃあプライスレスか」

「そんな言い方はしないけどな!」

また私の方を見た。

ふふって笑って、優しい口止めに頬が染まる。

掴みどころがなくて、知れば知るほどわからなくなる奏くんの私だけが知ってる奏くんに。  

安易に喜んでしまった。

「今日は部活なしにして明日やるか!奏、明日は来いよ!」