「いっぱいあるから好きなだけ食べていいよ!」

ガサッと見せてくれたスクールバッグの中には教科書が見えないくらいドーナツで埋め尽くされていた。

「いや、そんないらないし!」

どんだけ買って来たんだろう、好き過ぎじゃない?
それほど奏くんが好きなお菓子…か、これが。

じーっともらったドーナツを見ながら今食べるべきか家に持ち帰るべきか考えていた。

てゆーか部室(ここ)って飲食OKなのかな。

「あの歌の歌詞って、灯璃が書いたの?」

「…!」

ドーナツのことしか考えてなかった。
今それを言われるとは思ってなくて、わかりやすく背筋が伸びた。

「あ…っ」

やっば、忘れてた!
そーだった調子乗って勝手に歌詞作っちゃたんだ!

しかも頼まれた方じゃないやつを…!!

「ごめん、勝手に…っ」

「え、なんで謝るの?」

慌てて謝ろうと隣を見ると、焦る私とは裏腹にきょとんとした表情を浮かべた奏くんがこっちを見てて、目が合うとくすっと笑った。

「すごいよかったよ、俺も隣で聴いてて超盛り上がっちゃったもん」

あんなのきっと全然どうてことなかった文章だったと思う。
思い付いた言葉を並べただけでありきたりだし、何度も聞いたような言い回しだし、だけど…

「歌詞も歌声も、すごいよかった」

気持ちだけはいっぱい詰まってた。

私の素直な想いだけは、私にしか書けないから。

「灯璃の歌声っていいよね」

「普通だよ、みんなこんなもんだよ」

「そんなことないよ」

だから止まらなくて無我夢中で綴った。


「あまりに俺の曲にピッタリな声してたから、俺のものかと思っちゃった」


柔らかく頬を緩ませて笑う奏くんに、私はどんな顔をしてたんだろう。

溢れていく気持ちが止まらなくて胸が熱くなる。


「ねぇ、もう1回歌ってよ」


何度でも歌いたい、奏くんが言うなら。


いつだって、どこだって、奏くんのためなら。


気付いてしまったら進むしかないよ。




奏くんのことが好きだ。