「言ったでしょ?友達もいないって」

だけど私の前で、何も言わずぼぉっとする奏くんのことを放っておくことはできなくて。

「灯っ」

「いじめられてるわけじゃないよ、全然!そーゆうわけじゃないの!」

ブンブンと右手を振って、必死に答える。

そんな風にも思われたくなかったから。

「…新学期早々にね、事故に遭ったの。それで1ヶ月休んでたらもうクラスでグループできちゃててさ、やっぱ最初が肝心なのにね!ちょっと失敗しちゃったの!だから、友達できなかったの…っ」

それから1学期が終わってしまった、何一つ変わることなく。

それで今日から2学期が始まっちゃったの。

だから毎夜1人で出掛けてた、夏休みどこへも行くことがなかったから。

「ただそれだけだから!今のは、ほんと…気にしないで」

声が小さくなっちゃった、これは私のよくないところ…

わかってはいるんだ、こんなとこが友達を作ることもできないんだって。


だけど、一歩踏み出すのは怖い。


「ごめんね、奏くん!私もう行くね、もう始まるから奏くんも!」

「待って灯璃!」

グッと腕を掴まれた。

奏くんにこうやって腕を掴まれるのは2回目だ。

「俺今からギター弾くんだ」

「え!?」

毎度奏くんには驚かされるけど、今日も突飛な言葉に驚いてしまった。

「軽音部なんだ、部員は俺ともう1人…いるんだけど今日休みでさ」

そーいえば体育館の扉の前の廊下、奏くんも1人で何してるのかなって思ってた。

そっか、奏くんはこれからステージに立つ人なんだ。

「ありえないでしょ、2人しかいないのに。だって2人でやるんだよ?軽音部は大会とかないから始業式に何かやれって言われてすることになったのに、俺1人なんだよ?」

すぅっと腕から手のひらまで滑らせるように、今度はきゅっと手を掴んで私の瞳を見る。

少しかがむようにして目を合わせた。


「だから灯璃、歌ってよ」


そんなセリフを聞くのも2回目だった。

きっと昨日の私だったらこんなこと絶対引き受けなかった。


だけど昨日を超えた私だから…


奏くんのその言葉に、思い出したかのように心拍数が上がった。


「歌ってくれない?」


まるでその言葉を待っていたみたいに。


「俺と」