パチパチパチ…

拍手が聞こえた。
まばらでどこか不安げな拍手だった。 

あんなに人がいたのに帰っちゃったのか…
でも拍手をしてくれる人がいるだけでも嬉しい、最後まで聴いてくれた人がいただけでも嬉しい。

せっかく奏くんの演奏であんなに集まってたのに申し訳ないけど…

ふぅっと息を吐いて、いい加減閉じたまんまだった目を開けることにした。

「!?」

びっくりした、思わずもう一度閉じて開け直しちゃった。

さっきの人だかりよりも人が増えて私たちを囲った人の列は3列も4列も後ろまで作られて、みんながこっちを見てる。

まばらだった拍手も次第に大きくなって、私のドキドキと鳴っていた心臓の音よりも大きくなった。


え、何…?

これって、今… 


バッと奏くんの方を見た。

この状況を受け止められない私に奏くんは…


笑っていた。


目の力を緩めて、柔らかい瞳で私を見る。

あ、またドキドキが大きくなった。


奏くんを見たら…っ


「灯璃!」

グーにした右手を上げ、叫んだ。

「最高ーっ!」

その声を聞いてさらに拍手の音が大きくなった、圧倒されて後ずさりしそうになるぐらい。



ずっとドキドキしてる。


だけど歌う前のドキドキとは全然違って、ワクワクしていた。


私にもこんなことできるんだ。


手が震える、まるで地に足のついてないような感覚。



このドキドキは永遠に鳴りやまなそうになくて。



「灯璃っ」

ギターをベンチに置いた奏くんが私の隣に並んだ。

奏くんと比べて小さい私に合わせるように、身をかがませ近付いた。

「楽しかったね」

路上で歌うなんて考えもしなかったのに、手を引かれるまま歌うなんて…



こんなの初めてだった。



初めてのことで自分が自分じゃないみたいに思えた。

前を見ればたくさんの人がこっちを見て拍手しながら笑ってる、やっぱり上手く見られなくて隣を見た。



隣を見れば…

奏くんがいて。



ドキドキが心地よくも、苦しくて。


静かに笑う姿が眩しかった。



何もないと思っていた私の日常にキラリと光る一等星を見付けた気分だった。



そんな私の夏休み、私の人生最大の記憶を残して夏が終わった。