コンビニで買った大好きなガリガリ君ソーダ味を食べながら夜道を歩くのが私、望月灯璃(もちづきともり)の1番好きな時間。

「あぁ~、おいしいっ」

でも夜は好きじゃないけど。

何をするにも暗い気持ちになるから。

夜ってだけで。

ただこの熱い夜に抜け出してガリガリ君をおもむろにかじる瞬間がいいんだ。かじった音が映えるんだすごく、気分映えってやつ。

駅前の広場を通らなくちゃいけないのがちょっと萎えるんだけど。

広場って言っても、ただの駅前で特に何があるわけでもなくて。
シンボルである大きな木がどーっんと1本真ん中に立っていてその周りにベンチが置いてある。あとはポストと自販機があるくらい。

田舎の駅前なんてそんなもの。

ここが近道だし、あまりに暗い道はさすがに怖いから妥協してここを通ってる。

街灯があるからってだけで、実際そこまで人が多いわけじゃないんだけどね。

「あ、…今日もやってる」

たまにこの広場で路上ライブをやってる男の子を見かける。たぶん歳は変わらないぐらい。


それがすごく気になる。


つい目で追ってしまって、聞く気もないのに耳をすましてしまう。

だってこんな田舎の駅前の広場でそんなことする人いないし、特に人を集めて聞かせようともしてないから。

ぼぉーっと横目で見ながら彼の前を通り過ぎる…

本当は気になって気になってしょーがないんだけど。

立ち止まって聞きたいんだけど。


なんで歌わないの?って。


アコースティックギターを持ってベンチに座って音を奏でる。


だけど絶対に歌わない。

声は聴かせてくれない。


それが気になってしょーがない。



だってギターから流れるメロディーは私の心をえぐって来るほどいい曲だから。