「一緒に歌おうよ」

今度は微笑んで私を見た。

強く握られた腕が少しだけ緩んだ。

「俺がギター弾くから、灯璃は歌って」
 
「えっ、何言ってるの!?歌えないよ!」

「こないだ歌ってくれたじゃん、今からいつものとこ行って歌おうよ!」

「いやいやいやいや!それは違うでしょっ、こないだと状況も違うしあれはちょっとだけだったし恥ずかしいし…っ」

声が小さくなっていく、そんなの自信もないしまた下を向いてしまった。

「灯璃すごい上手だったよ」

「あんなのたいしたことないから」

「俺が聴いた中で1番上手だった」

「普通だってば!」

腕を掴んでいた奏くんの手がスルっと下の方に移動した。

優しく包み込むように私の手を握った。

「好きだよ」

「…っ!」

「灯璃の歌、俺は好き」

真っ直ぐ見つめる視線は一切の曇りもなく穏やかで、握った手のひらは温かかった。  

そんなこと言われたらもっと恥ずかしくて、頬まで熱くなって隠すように髪の毛を触るしかなかった。

そんな私を見て奏くんがくすっと笑った。

「行こう、灯璃!」

握った手をぐっと引っ張って、奏くんが走り出した。

「ちょっと!奏くん!?」

向かう先は駅、人ごみから遠くまで来たのにまた人が集まる方まで。

でも手を振りほどくことは不思議としたくなくて、なぜだか離せなかった。