時間は7時半、私と奏くんのステージが始まる。

「灯璃、今日の曲なんだけど」

「大丈夫!ばっちり覚えて来たから!」

なんて言わなくても、飽きるほどに聴いてるんだけど。奏くんの作った曲は嫌になるほど聴いてる、嫌になったことなんかないけど。

「あ、これ新曲ね」

「え、新曲!?」

「うん、この日のために書き下ろした」

「とんでもないサプライズありがとう!!でもできたらもっと早めに言ってくれるかな!?私にも準備がね!?」

「灯璃なら大丈夫だよ」

「…っ」

そんな顔で言わないでよ。

そんな愛しい笑顔で見ないでよ。


だって奏くんに言われたらなんだってできる気がしちゃうよ?


「テキトーに歌詞並べて」

「無茶振り相変わらずだよね…」

まぁでも仕方ないか。

そんな奏くんが好きなんだから。

「じゃあ始めようか!」

「うん!」

ギターを持った奏くんの隣に並ぶ。

マイクを持ってすぅっと息を吸って深呼吸をして。


今から始まるんだ。

奏くんと目を合わせたら。


自分には何もないと思ってた。

友達さえ上手く作れなくていつも1人だった。
 

それでもいいって思いながら、いつも探してたんだ。

自分にもあるかもしれない何かを。



でも実際見付かったかよくわかんないんだけどね。



でも1つ言えるとするなら、何も持ってなかった私にできることがあるとするならば…




奏くんの音を誰より輝かすことができるのは私。




私ほんとはね、ものすごく歌が上手いわけじゃないよ。


上手く聞こえてるだけだよ。




奏くんの作った曲だからそう聴こえるの。



奏くんの曲だから…




これは誰にも譲らない、私のものだよ。



その自信だけはあるよ。




“あまりに俺の曲にピッタリな声してたから、俺のものかと思っちゃった”


あの日からずっと奏くんのものだから。





「灯璃、歌ってよ」






だから聴かせてよ、私だけのラブソングを。