「奏くん、大好きなものはどれだけあってもいいよ!」

グッと顔を上げて奏くんの顔を見た。

しっかりと目を逸らさないで。


大丈夫、私は泣いてない。


「いっぱい持ってていいんだよ!1つ選ばなきゃいけないわけじゃないし、どれだけあってもいいんだよ!」


何も持ってないと思ってた。

平凡な高校生で身を隠すように過ごして来た。

でもそれは何も持とうとしなかったから。


ううん、私も怖かったの。


誰かと関わることが誰かと過ごすことが。


私なんかが、っていつも諦めてたから。



でも奏くんは違うでしょ?



「それなのに自分から捨てるなんてもったいないよ!」


初めて路上ライブでみんなの前で歌った時、こんな興奮ないと思った。

憂鬱だった夜が輝いて見えた。

始業式の日ステージに上がった時、ここに立ててよかったって思った。


私の新しい世界が見えた気がしたよ。



ねぇ奏くん。


奏くんは奏くんが欲しいと思った世界を歩いてる。



それってすてきなことだよ。



「たくさん欲張ってこうよ!」

拒むなんてことしないでいんだよ。

全部全部奏くんのものにしちゃっていいんだよ。


奏くんは自分で手を伸ばしてたよ。


私に手を差し伸べてくれたのは奏くんだよ。


「私はそんな奏くんが好き」


あぁダメだ、泣きそうになっちゃう。

瞳が重くて熱くなって来た。


「折原さんも駿ちゃん先輩も折原さんの家族も…みんな奏くんのことが好きだよ!!」


誰も責めたりしないよ。

むしろ喜んでるよ。

奏くんのお父さんもお母さんも、きっと今だって奏くんのこと大好きだよ。


笑っててくれたら嬉しいって、思ってるよ。