「ごめんね奏くん、私楽譜読めないの。だから歌詞もどう書いたらいいかわからない、書けないよ」

流れて来る涙を拭った。右腕で拭くようにして、涙が落ちたTシャツは跡が付いていた。

「灯璃、灯璃の趣味って何?」

「え、趣味?なんで…」

突然そんなことを言われて思わず奏くんの方を見てしまった。

顔をぐいっと逸らして見上げる、やっぱり背が高い奏くんと目を合わせるのは大変だ。

「趣味は何?」

「ないよ、別に」

どうしてそんなことを聞かれたのかわからないけど真剣な顔して聞くから、答えざるを得なくて。

「じゃあ特技は?」

「特技…もないよ」

しかも質問は止まらなかった。

「親は?」

「親はいるけど、さすがに」

「兄弟姉妹は?」

「いないよ」

私の腕は掴まれたまま、離してもくれないから無理に終わらせることもできなかった。

「友達は?」

ピクッと体が揺れる。
奏くんと合わせた目を逸らしてしまった。

「…いない」

「恋人は?」

「いない…」

「じゃあ好きな人は?」

「いないよ!もういいでしょ、離してよ!私帰るから!」

思いっきり振り払おうと思ったのに、奏くんの力は案外強くて私の力では到底無理だった。

それどころかそれ以上に奏くんが掴む力を強めた。

ぎゅうっと引っ張って、ぐちゃぐちゃになった顔の私を大きく目を開いて見た。

「じゃあ歌って」

「………え?」

その言葉はもっと想像してなかった、というかよく意味も意図もわからなかった。