「奏くん…!」

広い庭まで付いた家があった。

周りにあまり建物はなく、薄暗くて街灯だって数えるほどしかない。
それでも家から漏れる光りは温かみがあって、まだ真っ白のままの壁は暗闇でさえキレイに映っていた。

もうなくなっちゃったと言っていた家、でも目の前には…

「灯璃…?」

家を見つめる後ろから声がした、紛れもない奏くんの声だ。

ぐるんっと後ろを向いた。

それだけで泣きそうだった。

「奏くん…っ」

「奏…!」

「藍も…」

その後ろはもっと暗くて、目を凝らさないとよく見えないほどだった。

そこに奏くんはいた。

「何してるの奏!!何やって…っ」

折原さんが奏くんの腕を掴んだ。涙で消えていきそうな声を出しながら、掴んだ手は震えていた。

「ずっと…ここにいたの?」

ちょっとだけ目を伏せた奏くんがくすっと笑った。

「そんなわけないよ、ずっとここにいたら変質者として通報されるよ?」

「笑い事じゃない!!」

グッと掴んだ手に力が入ったから、奏くんがビクッと揺れた。

「何笑ってるの!?どれだけ心配したと思ってんの!?なんでここで…っ」

ポロポロと涙を流して、ずっと不安だった心から全部が出ちゃったんだと思う。

やっと奏くんの顔が見れたから。

そんなの私だって…

「ごめん、藍。灯璃も…」

奏くんが私の方を見た。

奏くんも泣きそうな瞳をしていた、でも私には笑って見せた。