気付けばへたんっとその場に座り込み、奏くんの頬を伝う涙を見ていた。


その手を取りたかった。

顔を隠すように瞳の上に置かれた右手を握りたかった。


でも、できないよ。


私にはできない。


不甲斐なくて涙ばかりだよ。


「…灯璃のことを考えたら曲がどんどん降りて来るんだ」

その言葉がグッと胸に刺さった。

「止まらないだよ。止まらなくて、…怖い」


例えばもし私と出会わなければ。


駅前でギターを弾く奏くんと一緒に歌わなければ。

こんなに涙を流す奏くんはいなかったかもしれない。


だけど私は無性に惹かれちゃったの。

毎夜、私を眠らせない音に出会っちゃったの。


出会わなければよかったなんて、嘘でも言いたくないよ。


ポタポタと流れる涙でコートの裾が濡れていく。知らぬ間に大きなシミができていた。

「…っ」


奏くんを苦しませたのは私だよね。


だから言えないよ。



私はいるよ、なんて。


私がいるよって。


その止まらない音楽を聴かせてなんて…    


軽々しく言えない。



私だって何もないんだから。