「父さんも母さんも…突然事故で俺の前からいなくなった。寂しくて怖くてどうしようもないぐらい真っ暗だった」

それはきっと私にはわからない孤独だったと思う。

想像するのは簡単でも、その悲しみは計り知れないから。


「急に1人になって…夜になっても灯りの点かない家を外からただ見てることしか出来なくて…もしかしたら父さんがドアを開けてくれるんじゃないかって、母さんがおかえりって言ってくれるんじゃないかって…っ」
 

奏くんの声が涙で滲む。


「…最後にはそんな家までなくなった」


私の瞳からもポロポロと涙が止まらずにいた。何か言いたいのに、何も言えなくて、私に言えることなんてないように思えて。

「置いてかれたみたいに思って、どうせだったら俺も一緒に行きたかった…っ」

奏くんの振り絞る声に胸が潰れそうになる。

痛くて、苦しくて、こんな思いを抱えてたんだって…

涙を両手で拭いて、奏くんの手を握ろうと思った。


「でも藍がくれたんだ」


伸ばした手がピクッと止まった。 


「藍が…俺に、…俺の手を引いてくれた。一緒に帰ろうって、俺の帰る場所に」


幼馴染ってどんなものだろうって思ってた。

奏くんと折原さんは特別仲が良くて憧れてた。

でもそれは私が思うより全然もっともっと心の奥の深いところにあるんだね。

 
ぽろっと涙がこぼれて、行き場を失った私の手はそのまま下に落ちた。


「…そんな藍のことを泣かせちゃった」 


ぽつんと奏くんの沈んだ声が寒空の下響いた。