重たいドアは最後まで締め切られず、数ミリの隙間ができてそこから風が入り込んで来ていた。

きっと開けられたばかりだからだ。

毎日警備員さんが確認に来るはず、開いていたら数ミリでも気付くと思う…

ドアノブを両手で掴んでグッと押した。


「奏くん…!」


ヒューと風が吹いてとびきり寒かった。

コートそのままに来たけど全然寒い。

なのに奏くんはそんな屋上の真ん中で、仰向けになって寝そべっていた。

ゆっくり近付いて隣にしゃがんだ。

「寒いよ、奏くん」

右手の甲の方を目に当てるように置いて、顔を隠していた。

だからどんな表情をしているのかわからなかった。


泣いてるの?


どうしてるの?


だけどそんなの…っ


「寒くない?中に入ろっ」
 
いくら奏くんだってコートを着ているって言ったってずっとこんなところにいたら…

「灯璃…」

「何…?」

か細い声、ヒューヒュー吹く風の音で掻き消されそうなくらいギリギリの声だった。
 

「俺も何も持ってなかったんだよ」


“…私、何も持ってないの。ただの高校生で普通の人なの…、何もないの”


「なかったんだよ…、全部なくなっちゃったから」

「奏くん…」

コンクリートの地面に膝を付ける。

冷っとして凍ってるんじゃないかって思うぐらい冷たかった。


でもね、そんなの気にならなかった。