「え…?」

両親のいない奏くんは子供の頃から折原さん家にお世話になってるって言ってた。

だから、もうそこは奏くんの家でそこを出て行くってことは…

「1人暮らし…するんだって、1人で暮らししたいんだって…」

折原さんの声が震えてる。
溢れる涙を必死に拭って、肩で息をしながら。

「私が奏に好きって言ったから」

幼馴染の奏くんと折原さんは本当に仲が良くて、いつも見ていて羨ましかった。

そこには2人だからこそ生まれる空気感があって、誰にも近付けないような特別なものがあるように見えた。


だから羨ましくて、憧れだったの。


「私が奏の居場所を奪っちゃった…っ」

震える声が痛いほどに刺さる。

「私が奏を1人にさせたの…」

折原さんの悲痛な叫びが。

「言わなきゃよかった、あんなこと言わなかったら…っ!」

「そんなことないよ!」

折原さんの奏くんを想う気持ちは折原さんのものだから。

否定しないで、自分を責めないで。

ぎゅぅっと折原さんの背中に手を回して抱きしめた。

「好きって言える折原さんはすごいよ!」

誰かに好きって伝えるのは難しい。

だって伝えるのは1人でも、伝えた先にはもう1人いるから。

相手の気持ちのいることだから。

「言わなきゃよかったなんてことない!いっぱいがんばったのに、そんなこと言うのはもったいないよ!」

折原さんは後悔してるかもしれないけど、それでも伝えようって思った折原さんはすごいよ。えらいよ。

「折原さんの気持ち、奏くんに伝わったよ…!」

ひとつ否定したら、全部否定するみたいになっちゃう。

そんなことないよ、だって折原さんは奏くんのことが好きだったんだ。

だって折原さんは奏くんを苦しめたかったわけじゃないんだよ。


奏くんを苦しめたのは…


「藍ちゃん?灯璃ちゃん?」

開けっ放しだったドア、駿二先輩が眉をハの字にしかめて入って来た。

「え、何?どーした!?」

私たちを見て心配そうに駆け寄って来た。

「つーか奏が勢いよく走って行ったんだけど…、呼んだけど無視でさ」


奏くん…!


そうだ、奏くんはどうしてる!?

奏くんだって、つらそうだった。


奏くんだって泣きたいのかもしれないよね…?


「駿ちゃん先輩!折原さんのこと、お願いします!」

「え、あ!うん!」