「どうしたの…っ」

勢いよくドアを開けた、開けた瞬間こっちを見た。


やっぱり言い合ってる相手は奏くんだった。


色のない瞳は心細そうで、ゆっくりと私から視線を逸らした。

「どう、したの…?何かあった…?」

何も答えてはくれなくて、そんな奏くんの前で折原さんは泣いていた。

まるで子供みたいに泣きじゃくって、私まで感情が移りそうになるくらいに。

「奏お願い!そんなこと言わないで!」

涙を流しながら奏くんの腕を掴んだ。両手で力強く握り、ガンガンと揺すった。

「ねぇ!?」

それに反して奏くんの声は落ち着いていて、掴まれた折原さんの手をグッと引き離した。

「ごめん、もう決めたことだから」

さらにグーッと押し離し、俯いたまま部室から出て行った。

「ごめん…っ」

「奏…っ!」

私の隣を擦り抜ける、一瞬でもこっちを見ることなく走って出て行った。

何が起きてるのかわからなくて、奏くんの名前を呼ぶことさえできない。

「どうして…っ」

その場に崩れ落ちるように折原さんがへたんっと床におしりを付けた。

「折原さん、大丈夫!?」

駆け寄って折原さんの前にしゃがんだ。
下を向いたままむせび泣いて、ボロボロと涙を流している。

「大丈夫!?何があったの?」

泣き声をのどにつまらせて、ひっくひっくと息をするのにも苦しそうでこんなに取り乱した姿は初めてだった。


奏くんだってあんな冷たい瞳、初めてだった。

私も怖くなった、知らない人みたいで。


折原さんと奏くんの間に何が…っ

「……っ」

震える折原さんの手を握った。

「折原さん…!」

両手でぎゅっと、包み込むように。

「何があったの?」

グッと瞳に力を入れて真っ直ぐ折原さんを見る。

「……望月さん…」

「教えて、何があったか」

「……。」

私と目を合わせた折原さんがまた下を向いた。

涙を流して、消えそうな声で私に言ったの。

「奏が家を出て行くって」