毎日私が隣で聴いていたメロディーじゃない、聴いたことのない曲だった。

“新曲作ったんだ!”

あれが、そうなのかな…

ギターの音がしているけど、周りを取り囲んだ女の子たちのザワザワした声で上手く聞こえない。

あんなに聞いていたのに、隣は私の場所だったのに、今日は…


奏くんの顔さえもよく見えなかった。


そこへ近付くこともできなかった。

その中には入っていけないように思えて。


きらめく眩しい空間に私は向いてないから… 


そっか、勝手に同じ気持ちでいたけど奏くんは違ったんだ。


私とは違うんだ。


ギターの音が止まった。

ワァッと歓声が沸いて、いっぱいの拍手で包まれた。

いつもは単調な拍手の音しか聞こえないのに、今日はワーワーと賑やかな声もあればカシャカシャとスマホのカメラで写真を撮る音も聞こえる。

いつも私が座っていたベンチとは思えないぐらい。


その真ん中に奏くんがいる。


「………。」

帰ろう、もう帰ろう。

やっぱ今日が夏祭りだって気付いた時に戻ればよかった。

スッと人だかりに背を向けるようにしてこの場から離れようと思った。

今日はこのまま、アイス買わないで…

「灯璃!」

なのに奏くんが私を呼んだ。

背の高い奏くんは目立つ、立ち上がれば周りの女の子たちより頭ひとつ飛び出てる。

「今日は聞いてかないの?」

奏くんを囲んでいた女の子たちが一斉にこっちを見た視線を背中に感じた。

「灯璃?」

「…っ」

そんなに名前呼ばないでよ、注目の的じゃん。

みんなが私を見てるじゃん。

カラフルな浴衣を来て、自由自在に髪の毛をアレンジして、爪まできらめいて…


私こんな格好なのに…っ 

恥ずかしい…!


奏くんの方を見ることができなかった。

振り返るとこもできないまま、…逃げちゃった。