「あ、灯璃!いらっしゃい!」

「………え?」

「何買いに来たの?今日は卵がお買い得だよ」

「ううん、卵は…じゃなくて!奏くんここでバイトしてたの!?」

シャツに黒のパンツ、その上から緑のエプロンをしている奏くんは紛れもなくここの従業員だった。しかもちょうど品出しをしていた、私の頼まれた牛乳の。

「そうだよ、学校から1番近いしね。まぁ俺ん家からは反対方向にはなっちゃうんだけど」

全ッ然知らなかった…!

スーパーなんて来ないから…
普段どれだけ家の手伝いをしていないのが明白になってしまった!!

「灯璃お手伝い?えらいね」

奏くんは話しながらもテキパキと手を動かしていた。普段おっとりしてるように見えるけど、牛乳を棚に並べていく姿は様になってる。

「うん、お遣い頼まれて…別に全然えらくはないけど」

こっちを見てにこっと笑ったから、ドキッて心臓が音を出した。

「奏くんのがえらいじゃん、バイトしてて!」

「俺はちっともだよ、だって自分がお金欲しいからバイトしてるんだもん」

やっぱりのほほんとしてた。のほほんって笑いながら牛乳並べてた。

あとやっぱり明確にお金は欲しいんだなって思った。そんなの誰だってそうだけど、ただ遊びたいお金が欲しいようには思えなくて。

駄菓子?そんな買うつもりなの??

「奏くんめっちゃ働いてるよね、折原さんが言ってたよ」

「うん、ずっと続いてるかな。文化祭の前結構休んじゃったから」

「そうなんだ…、じゃあクリスマスの前まで忙しいんだ」

「え?なんで?」

牛乳全部を並べ終えた奏くんがこっちを向いた。ぽかんとした顔で。

「クリスマスもバイトだけど」

「パーティーしないの!?」

「パーティー?」

「あっ、これも折原さんが…っ」

「あぁ、…それは夜だから」

ふいっと視線を逸らし、空になったコンテナを重ね台車の上に置いた。

その横顔がどこか寂しそうに見えた。

だけど、どうしてそんな顔をしたのかこの時の私にはわからなくて。

見逃してしまった。