「折原さんは…もう大丈夫?」

すでにローファーに履き替えた折原さんが振り返った。

「もう平気よ」

ぐるっと巻いたマフラーから少し見える口角の上がった口元に笑っていることがわかった。

「それに、私には他にあるから…大切なもの」

「他に…?」

何があるんだろう…
大切なものって、折原さんにとって大切なもの…?

「じゃあ望月さんがんばって、モタモタしてたら誰かに取られちゃうかもよ」

右手をひらっとさせ手を振る。
そのまま歩き出そうとする折原さんをどうしてか引き止めたくなった。

「折原さん!あのっ、私…折原さんのこと好きです!」

…やば、もっと言い方あったんじゃないのコレ。

だって折原さんも眉間にしわ寄せてなんだコイツって顔してる。

違うの、そーゆうんじゃないの。

私が伝えたかったことってそうじゃなくて…

「望月さんに言われてもね」

「で、ですよねっ」

自分のコミュニケーション能力の低さに頭抱える。もっと上手いこと言えないのかな自分、勢いだけで喋り出すもんじゃない。

「でも…ありがと、誰かに好きって言ってもらうのって嬉しいのね」

一瞬、心の中でキュンって音がしたんじゃないかって思った。

私にも笑ってくれるんだ、そんな顔で。

それは私も…嬉しい。

「また明日ね、望月さん」

「うん、明日ね!」