奏の方を向いた。

しっかり目を合わせて、小さく深呼吸する。

「藍…」

「うん。いいよ、言って」

奏と体を向き合わせた。

いくら背の高い私でも、それ以上に奏は大きいから見上げることになってそれがよかったなって思ったんだ。少しでも上を向けば涙が溢れないんじゃないかって思って。


「ごめん、藍…藍の気持ちには答えられない」


奏が俯いた。

頭を下げて、私に謝るように。


「うん、わかった」


わかってた、こうなることは。


最初からずっと、だからなかなか伝えられなかったの。


お願い、もう少しだけ待って。

涙よ、流れないで。


「じゃあ婚約は解消ってことで!」

奏が顔を上げた時、少しでも笑っていられたらいいなと思ってた。

「藍…っ」


“大きくなったら結婚しようね”

小指を絡ませて笑い合った。

それが約束の仕方だと思っていたから。


「…解消、ってことでいいよね?あ、奏は覚えてないんだっけ…でも、そんな話も昔っ」

「覚えてる!」

突然の奏の大きな声に目を見開いた。眉をハの字にして、必死になりながらも悲しそうな顔をして。

「言われるまで忘れてたのはあれなんだけど…っ、でもちゃんと思い出した!だから覚えてる!!」

もう私だけの思い出にしておくはずだったのに、そんな風に言われたら…