「じゃあ私臨場感楽しみたいから前行くね!録画がんばって!」

「うん、ありがとう」

しなのが人ごみの中に駆けてゆく、そろそろステージの始まる時間ね。

私がステージの上に立つわけじゃないけど緊張して来た…かも、大丈夫だったかな…

ドキドキして心臓が痛い、右手で胸の辺りをさすりながら深呼吸をした。

「今からステージ企画を開催します」

アナウンスが入る、一宮くんの声だ。

そういえば文化祭実行委員はこれも仕事だったよね。一宮くんが話しているのはステージ右下、そこからマイクを使って話してる。

「まずはステージ企画を盛り上がてくれるトップバッター、軽音部です!文化祭ステージ企画を大いに盛り上げてもらいましょう!」

ドキドキと音が大きくなる胸をきゅっと押しながらビデオカメラの録画ボタンを押した。

もうすぐみんな出て来る…


「この秋から新メンバーを加えパワーアップした軽音部所属のCraft of Flap(クラフトオブフラップ)のみなさんです!どうぞ!!」


“藍ちゃんは…俺らのバンド名考えといて!”

Craftクラフトの意味は技術や技能、Flapフラップは羽ばたく。

直訳したら“羽ばたく技術”、羽ばたくことに優れた技能を持ってるってことになるんだけど…
奏の安定したリズムと駿二先輩のなめらかな音で作られる伴奏はバランスが良くて2人だからこそ奏でられるメロディーだと思う。

今までは駿二先輩が歌ってた。

でも2人の演奏はメンズボーカルだと暗く感じてしまって…

第一声から圧倒される、望月さんの伸びの良い声はそんな演奏を一気に変えてくれる。

暗く感じてたのが深さへと、だから引き込まれるの。


そんな意味で名前を付けた。


3人揃えばどこまでも届く、羽ばたくような音楽を作れるって。


「……っ」



あぁ、やっぱり歌上手いなぁ望月さん。