「なんで軽音部入らないの?」

「え…」

「今更なんだけどね!すっげ今更!!…でも俺、何度も俺誘ってるのにどうしてかなぁーって」

駿二先輩と目をわせる、駿二先輩が私の方を見たから。

「なんか理由があんのかなってさ、だって軽音部のめんどくさいこと何でもやってくれるじゃん!?俺らはそれ超助かってんの!俺も奏も、細かいこと苦手だから藍ちゃんが来てくれてめっちゃくちゃありがたいの!」

駿二先輩が残り半分になったソーダのコップを両手で持って、またグラウンドの方を向いた。柵の上に手を乗せるようにして。

「藍ちゃん俺らのことすごい見てくれて、演奏も聞いてくれてるから言ってくれることめっちゃ為になるしもういないと困るんだよね」

顔だけこっちを向いた。

ずっと動かないでいる私の方を。


「もう軽音部じゃん、藍ちゃんは」


俯きそうになった。

だけどグッと力を入れて前を向いた。

駿二先輩と横に並ぶようにして柵の方へ近付いた。


「…奏の居場所を奪いたくなかったんです」


遠くを見るように、昔を思い返すように。

まだ幼かったあの頃を思い出にするために。

「奏のお父さんとお母さんがいなくなってから奏の帰る家は私の家になりました。きっとすごく寂しかったと思うんです、いきなりここが奏の家だよなんて言われて」

奏が1人にならないように、奏はここにいていいんだよって…