「折原さんはどうして軽音部入らないの?」

唐突な話題に目をぱちくりさせてしまった。

「あ、理由は!いろいろあると思うんだけど、だから聞かない方がいいかとは思ったんだけど!」

「……。」

「昨日…折原さんが来てやっぱり思ったんだよね、折原さんいないと物足りないっていうか締まらないっていうか」

片手では重い手持ち看板を両手で支える。

「てゆーかなんで入ってないんだろうってぐらい部活のことしてるし、基本は自由活動なら入っててもそんなに影響なさそうだし、だから…」

望月さんが一度下を向いて、グッと顔を上げた。


「軽音部、入ろうよ!」


ガヤガヤと人の声が聞こえる。
なのに望月さんの声がスッキリ入って来てしまって。

「…望月さん、私のこと嫌いじゃないの?」

静かに前を向いた。きっと望月さんは私の横顔を見てる。

「え、全然!嫌いでは…!むしろ私が嫌われてるのかと…」

ふるふると横に首を振って、1つに束ねた髪から溢れた髪を耳にかけた。

「そうね、嫌だったかも」

「やっぱり!?」

「最初はね」


最初から思ってた。


“今日から灯璃も軽音部に入ったんだ”

奏から紹介された時、奏にとってこの子はどんな子なんだろうって胸がざわついた。

ううん、その前から…


ステージの上で奏の隣で歌う望月さんを見た時から、胸騒ぎが止まらなかったの。


「あのね、折原さん!私、折原さんとも仲良くなりたい…!」

隣にいるのに身を乗り出すようにして私の視界に入って来る。

でも受け入れることが出来なくて。

「嘘付いたのよ、私」

受け入れていいとは思えなくて。

「嘘、付かれた時はショックだったけど…でもっ」

わざと遠ざけてしまった。

「折原さん悲しそうな顔してたから、あの時…!」


“ごめんね、嘘付いて”

どんな顔をしていいのかわからなかった。

だから精一杯普通を見繕った。


”言いたくなっちゃったの、奏のことが好きだから”

少しでも惨めにならないように余裕を持って。



でも私、そんな顔してたの?