昨日乾かしておいたハケはちゃんと乾いていた。
今日はもうハケを使うことがないから、回収して教室のロッカーの中にでも入れておけばいいか。全部が終わったら職員室に返しに行くことになってるからね。

明日は文化祭、カラフル喫茶の準備もラストスパートに差し掛かる。

でもその前に…

駆け足で階段を上ってコンコンッと2階ドアを叩いた。
聞こえてたかはわからないけど、だって演奏していてそんな音聞こえないと思うから。

「音!ズレてますよ!!」

返事を聞く前にドアを開けた。というか私も何か言われても聞こえないから。

「藍ちゃん…っ」

どれぐらいぶりかな、ここまで来るの。
もう久しく来てなかったから遠いと思ってしまうほどに。

「駿二先輩も奏も、もっとお互いの音聞いて!奏が自由に弾いてるせいで駿二先輩焦ってまた誤魔化してますよね!?」

「折原さっ」

「望月さんもまだ声出せるでしょ!」 

「はいいぃっ」

特に防音になっていない軽音部の部室、外に音は丸聞こえで廊下にいる時からずっと聞こえていた。

聞きながらここまで来た。

今のはそれを踏まえて気になったこと。

「藍、来てくれたんだ」

「…あたり前でしょ、こうして意見述べるのも私の仕事なんだから!」

奏と目を合わせたら、ついこんな言い方してしまった。

腕を組んでふいっと、視線を逸らして。


だって奏が笑ったから。

ドキッとして、恥ずかしくて。