奏と帰るのは少しだけ久しぶり、私が告白してから一緒に帰ったことがなかったから。  

「毎日忙しそうだね、文化祭の準備そんなにあるんだ」

「友達が文化祭実行委員だから手伝ってることもあって、それでね」

「そっか、もう明後日だもんね文化祭」

「うん…、そっちはどう?部活上手くいってる?」

知らないフリをして聞こうかと思った。

ずっと行けてないから、わからないフリをして。

「うん、まぁまぁかな」

何も言ってはくれなかったけど。

遠くを見つめて微笑む奏の隣で、私も笑って返した。

ちゃんと笑ってかは、どうだったかな。 

「そっか、演奏楽しみだな」

暗くなってしまった帰り道、静かで街灯だけが光ってる。何度も通ったいつもの道、向かう先も帰る場所も同じだから。


でもそんなの関係なくて、いつも私の隣には奏がいた。


「ねぇ見て藍、キーホルダー付けたんだ」

ズボンのポケットから取り出した鍵にはガラス細工で出来たひまわりのキーホルダーが揺れていた。

その隣にはもうひとつ付いていた、ボロボロになった木で出来たひまわりのキーホルダーが。

「外さなかったの?それ」

「うん、やっぱなんか寂しくて」

「せっかく新しいの買って来たのに」

「うん、でも…これは俺の宝物だから」

重なった2つのキーホルダーがカランと音を立てる。

立ち止まった奏が指を差した。

私たちが帰る方向ではなく、反対側を。


「こっちが俺の家だよ」


奏が止まったから私も足を止めてしまった。

「昔はいつも藍が迎えに来てくれたね」

にこっと私を見て笑った。


奏が指を差した方に向かえば、奏の家がある。

ううん、今はもうないけど。


私の中にも記憶がある。

まだ幼かった頃、まだあの場所に家があった頃、学校からの帰り奏はいつもそこへ行っていた。


もう誰もいない家の前でよくうずくまっていた。

その光景は今でも浮かんで来る、だから迎えに行っては声を掛けていた。


“一緒に帰ろう”

手を差し出して。