「それと…、文化祭でやる曲の候補!リストにしてくれて」

「あれはもうっ」

「あ、わかってる!そうじゃなくて!」

先に塗ったペンキがもう乾いていく、速乾性のペンキは乾くのが早い。

「歌詞カードも別で用意してくれたのは私のためだよね?」

手を止めてる暇なんかない。

「ありがとう」

「…あたり前でしょ。望月さんは軽音部なんだから、私みたいな仮部員じゃないんだから」

視線を戻した、止まっていた手を動かし始める。

「ってこないだ言いたかったんだけど言いそびれちゃって」

“あのね折原さんっ、それで!”

あの日、部室へ行く時言いかけたのはそのことだったんだ。

「部活に入らない理由はいろいろあるのかな…って思うから聞かないけど、折原さんが軽音部のためにしてくれてるのはわかってるし、途中で仕事投げ出したりしないのも知ってる。機材の申請とか、私たちが忘れちゃいそうなとこ全部フォローしてくれてて」

「それもあたり前よ、一応それが私の仕事なんだから」

「だから!」

望月さんの声が大きくなって、グイッと身を乗り出した。

「だから…部活入ってても入ってなくても折原さんが来ないのは寂しい!」

そんな面と向かって、しかも身を乗り出したおかげで距離も近くなって、しっかり目まで合ってしまって。