制服からジャージに着替えた。腕捲りをして髪を結んで、床に置いた手持ち看板の前に膝を付ける。机を移動させて教室の後ろに作ったスペースで、望月さんと向き合うようにして。

「じゃあ私、文字の縁取りしてくね!えっと、黒のペンキ…」

「縁取りは最後の方がいいと思う。黒は最後、なるべく薄い色から塗っていくと混ざらなくていいから」

「そうなんだ、さすが折原さん」

「勉強して来たんじゃないの?」

「う…っ、ごめん…」

はいっと望月さんにハケを渡した。自分もハケを持ってペンキに浸した、まずは背景から塗っていこう。

水色のペンキをたっぷり付けたハケで一気に塗っていく、均等になるように広げて全体を覆うように塗ってまずは下地を整える。

「折原さん」

「何?とりあえず一気に塗ってくれていいから、少しくらいはみ出しても修正出来っ」

「ありがとう」

「……え?」

手が止まった。
どうしてそんなことを言われるのかわからなくて顔を上げた。

「折原さんの気持ち、わかるよ」

でも望月さんは下を見るように看板の方を見ていた。

「嫌だよね、急に現れて突然入部して…私だったら嫌だもん。そんなぽっと出の奴嫌だと思う、もしかしたら部活から追い出しちゃうかも」

「……。」

「でも折原さんそんなことする人じゃないよね」

望月さんが顔を上げたから目が合った。


「歌が上手って言ってくれて嬉しかった」


“望月さんは歌が上手よね”

羨ましく思った。

あんな風に歌える望月さんを。


でも上手に歌いたいと思ったわけじゃない。


だからそれは本当にそう思っただけで。