私が家に帰る頃には奏も家に帰っていて、玄関には奏の靴が置いてあった。

今、部屋にいるのかな…?  

ゆっくりゆっくり階段を上がる。

耳をすませながら、なるべく物音を立てないようにして。

2階まで上り切った奏の部屋の前、そぉっと耳を近付けた。


「………。」


人の気配はする。

だからきっと奏はいる。


だけど、ギターの音は聞こえなかった。


弾いてないんだ、いつも聞こえて来たのに。


いつから弾いてないのかな。

どうして私は気付けなかったんだろう。


それが無性に寂しくてぞぉっと体中虚しさが駆け巡った。


静かにドアから離れた。

視線を下ろして、ドアノブに手を伸ばす。

グッと力を入れて捻る…
だけなのに、どうしても力が入らなくてスルッとドアノブから手が離れた。


「…。」


何も出来ない。

何も言えない。


コンコンッってノックするだけでいいのに、ただ「ただいま」って言うだけでいいのに。

私と奏の会話はそれだけでいいのに。

そしたら奏が「おかえり」って言ってくれるのはわかってるのに。


どうして出来なくなっちゃったんだろう。  



全部自分が悪いよね。


泣きそうになった。



そんなのずるいよね。