「まぁ、スランプ?って言うの?誰でもあることだからさ、それはね、しょうがないんだけどさ…文化祭すぐだからちょっと困っててね」


そんなの全然知らなかった。


そういえば家での奏はどうだったんだろう。


ギター、弾いてたのかな?

それさえも思い出せない。


遮ったあの日からずっと、わざと近付かないようにしていたから。


「ごめんなさいっ、私全然気付かなくて!」

「ううん!藍ちゃんが謝ることじゃないから!これは奏の問題だし、つーか軽音部の問題ではあるんだけどっ」

焦る私に腕を組んでいた駿二先輩がすぐに手をほどいて、まぁまぁとなだめる様にパーにして開いた両手を出した。

たぶん、駿二先輩も焦ってた。

「こないださ、久野ちゃん来た日…藍ちゃん来なかったけど、1曲だとあれだからもう1曲やった方がいいと言われたんだよね。時間が余るからってことだったんだけど、そのつもりなかったから急に言われて奏もテンパっちゃったのかなーとか…そんな感じなのかなって思うんだけど」

「………。」

駿二先輩も困ってる、困らせてる。

でも何て言ったらいいかわからなくて。
 
「ごめんね、藍ちゃんに言ってもって感じだよね!久野ちゃんもギリギリで言って来ないでよ~って感じだよね!」

申し訳なさそうに駿二先輩が笑った。
小さく首を左右に振って答えた、駿二先輩が謝ることでもないから。

「文化祭の準備忙しいのにごめんね!」  

「いえっ」

「また時間出来たら軽音部来てよ、藍ちゃんいないと寂しいからさ!」

「…はい」

じゃあっと手を上げて走っていく駿二先輩の背中を見送った。

だけど、見送るだけで部室とは反対方向の教室に戻ることしか出来なかった。