「奏、またギター上手くなったね」

「そう?」

「うん、練習一生懸命なのわかるよ」

嬉しそうに笑ったから。

「奏って本当ギター好きだよね」

私も笑って見せた。

少し視線を上げて、目を合わせて。


「好きだよ」


それが私に言われてるみたいで、なんだか恥ずかしくなった。

「弾いてる時って、自分のギターの音しか聞こえないから。なんかそれがさ、自分だけの世界にいられるみたいで好きなんだ」 

頬を緩ませて話すのは私のことじゃなくてギターの話、ギターにまでも嫉妬するなんて。

「それも藍たちのおかげだよ」

「私は何もしてないよ」

「藍のおじさんがもう使わないからってギターくれたおかげ。それで8時までなら家で弾いてもいいよって言ってくれたおばさんのおかげで、…藍がギター弾くの上手いねって褒めてくれるおかげで俺はギターが弾ける」

「そんなの…」

ただそう思ってるから言っただけ。

うちに来てから、笑っていたけど時折寂しそうな顔をしていた奏がうちのお父さんのギターを見付けた時これ以上にないくらい声を上げた。

これ父さんもやってた!って大きな口を開けて、興奮した目でギターを指差して…


それが奏がギターを始めたキッカケだった。


小さな手で弾いていたあの頃からもう何年経ったかな、いろんな曲を聴かせてくれたよね。


私が好きだって言う曲は何でも弾いてくれた。


でもね、奏が作った曲は一度だって聴かせてはくれなかった。



それはどうしてなの?



「ねぇ藍」

奏の瞳の色が変わった。

あんなに緩んだ表情をしていたのに。

「あのさ…」

「あ、私着替えないと!」

だから遮ってしまった。

「もうすぐご飯だよね!?」

「あ、うん…そうだね」


聞きたくなくて、聞けなくて…

その続きは聞きたくない。



ごめんね、奏。