しなのに頼まれたことをしていたら今日も遅くなってしまった。

しなの1人だと可哀そうだし、一宮くんはいるけどそれでも級長と兼ねていると仕事も多いから…テストが終わって時間には余裕があるから頼まれたら断れなくて。

ほとんど文化祭実行委員のポジションとして動いているように思える、これなら私が立候補すればよかったかもしれない。

「ただいま」

玄関から呼び掛けるとリビングの方からお母さんの“おかえりの”声が聞こえた。 

お母さんが仕事から帰って来るより私の方が遅かった、こないだもそうだったし没頭してると時間はあっという間に過ぎるから。

ふぅっと息を吐いて階段を上った。

きっともうすぐご飯の時間、宿題はご飯の後でやろうかな…

「……。」

2階へ上がるとすぐ左側に奏の部屋がある。

閉まったドアの向こうからギターの音が聞こえた。

まだ7時前、ギターを弾いてもいい時間。


奏の作った曲…

これは文化祭で演奏する方じゃない、始業式で演奏していた方だ。

 
「………。」

トンッと壁に背中を付けて耳を傾ける。

奏のギターの音、すごく繊細なんだよね。

だから聞き心地が良くて…


「好き、なんだよね」


目をつぶる。奏でられた曲を聞きながら。

録画した始業式の映像は何度も見た。

何度も聞いた。


こんな曲、いつから弾いてたのかな。


ここを通る度、奏の部屋からはギターの音が聞こえて来ていた。


でもどれも私の知ってる曲ばかりで、こんな曲知らなかった。


いつから弾いて…


「何してるの?」

「奏!」

ドアが開いた。

びっくりして壁から背中を離した。

「階段上って来てるなーって思ったらここで足音が止まったから、藍何してるのかなって」

「え!?私ってわかった!?」

「わかるよ、藍のことは足音でもわかる」

少し首を傾けて、ふふっと奏が笑った。

私を見る奏の視線は悠然としていて。