「藍ちゃーんっ」

至近距離から聞こえた声にビクッと体が震えた。
まだ野球モードなのかと思うぐらい大きな声で、そんな近くからなら十分聞こえるのに。いくらイヤホンをしていた私でも。

「…何ですか?」

ワイヤレスイヤホンを外してスカートのポケットに入れた。

「ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」

ギターストラップを肩から掛けたまま、余っているもう1つのパイプ椅子を私の隣に置いた。
ノートを見られるのはなんだか恥ずかしくて慌てて閉じる。

「こないだみんなで合わせた時さ、藍ちゃん俺の演奏どう思った?」

持って来た椅子に座って膝の上にギターを乗せ、顔だけ私の方を向けた。

「駿二先輩の演奏ですか?」

「うん、その時録音もしてくれたじゃん?自分で自分の演奏聞いたんだけど、藍ちゃんはどう思ってるかなって…ちょっと意見欲しい!」

「そうですねぇ…」

腕を組んでうーんと考える、数日前の合同練習で初めて録音をした。今もその演奏を聞きながらグループ名を考えていたから…

「駿二先輩たまに誤魔化してますよね」

「うっわ、バレた!?」

「バレてますよ、そうゆうアレンジなのかなとも思わなくない弾き方ですけど奏が最初にくれたデモとは違いますよね」

「ちなみにどこがそう思った?」

奏が私にも用意してくれた楽譜を見る。どの部分だったかを思い出すように順番に目で追った。

「そうですね…あ、ここです!」

「うわっ、俺の思った多とこドンピシャだった!」

私が指を差したところを見て、ばつが悪そうな顔をした。駿二先輩本人も自覚はあったみたいで、ぺろっと下を出して楽譜を見つめていた。