「おっ、今日は全員いるね~!」

最後に部室に来た駿二先輩が両手を広げながら入って来た。たぶんこのポーズに意味はないんだと思う。

「文化祭も近付いて来たから気合い入れてくぞ!しまってこーっ!」

「駿二、そんな熱血部でもないよ」

「昨日スポコン漫画読んでさぁ、俺は今野球がしたい!」

「今日もいつも通りの個人練して合わせね」

さっきの意味のないポーズは野球のキャッチャーの掛け声をマネたものだったのね。誰も野球に詳しくなくて奏の呼び掛けで部活に切り替わった。

最初の1時間は個人練習、この時間の私はまだ決まらないグループ名を考える時間。

部室の角っこにパイプ椅子を置いて、練習風景を見ながら…ずーっと考えてるんだけどいい案が浮かばなくて、ノートに書いては消してを繰り返してる。

3ピースバンド…
じゃないよね、今までデュオだったのがボーカルが加わって…
声も女の子になったから…

「灯璃、ここの歌い方なんだけどさ…あ」

「え?何、おかしかった?」

奏が望月さんの髪の毛に触れた、人差し指と親指で挟んだ髪をスーッとなぞるようにして撫でる。

「ゴミ、付いてた」

「…ありがとう」

微笑む奏に望月さんが少しだけ頬を染める。 


そんな望月さんを見て奏は… 


奏が言ってほしくなかった気持ちはわかるの。 

だって居づらくなるのは奏の方だから。


私が奏を苦しませることになること、わかってた。


()わない方がいいこと…

わかってたの。



でもね、もう限界だったの。



どんどん望月さんを見る瞳が変わっていく奏を見るのが…


そんな愛しそうな瞳で見ないで。

そんな柔らかい顔で笑わないで。



もう限界―…っ