「折原さん?」

「拾ってくれてありがとう」

俯きかけた顔を上げ、クリアファイルごと楽譜を受け取った。

「あのね折原さんっ、それで!」 

前を向いて歩き出した私を望月さんがさらに必死な声で呼んだから、さらに歩く足が速くなってしまった。

渡り廊下を抜けたら目の前の階段を上がる、1番上が軽音部の部室のあるところ。

「何も気にしてないからいいのよ」

「あのっ」

階段を上がるのに足を上げる、軽音部の部室までは本当に遠い。

「折原さん!」

数段上ったところで足を止めた。何度も私を呼ぶから。

「そもそも曲は違うのがいいって言ったのは駿二先輩なんでしょ、なんで望月さんがそんなこと言うの?」

振り返った。望月さんの方を見下ろすように。

「それとも望月さんは何か知ってるの?」

「え…」

じーっと見つめた、望月さんも逸らさず私を見ていた。

「嘘よ」

「…っ」

「奏の婚約者なんて」

こんな時、どんな顔をしたらいいのかわからなくて後ろを向いてしまった。

「奏から聞いたんでしょ?ただの同居人だって」

あんなのすぐにわかることだったのに。

高校生で婚約者なんて、どこのお嬢様でもないのに。

「ごめんね、嘘付いて」

だから謝るのは私の方、静かに深呼吸をしてゆっくり望月さんの方を見た。

「言いたくなっちゃったの、私奏のことが好きだから」