ハロルはミーンに引っ張られるまま学校に来ていた。花壇はあんなことがあったので、誰かが荒らしに来ることはないだろう。しかし逆に水を与えてくれる者もいない。すべて枯れてしまっているかも知れなかった。

 しかし学校の花壇に着いた二人は驚きに声を漏らした。

「すごい」

 枯れるどころか、色とりどりの花々が咲き誇っている。
 感動している二人の背中に声が掛かる。

「おい、どいてくれよ」

 聞き覚えのある声に振り替えると、そこにはブロンが立っていた。ジョウロを持って。隣には二人の仲間が居た。同じくジョウロを持っている。

「あ、あれ? ミーン? ……と暴力女!」
「誰が暴力女だ! テメェだって暴力振るっただろうが、家畜デブ!」

 売り言葉に買い言葉だ。ブロンは、しかし言い返さなかった。あのとき自分がやり過ぎたことを反省しているのだろうか。

「ミーン、あのときはごめん。虚構士のやつに畑を荒らされたと思って。父ちゃんも母ちゃんも泣いてたから。めちゃくちゃ腹立ってて……でもそんなの言い訳で、正直ただの八つ当たりだった」

 しおらしくなるブロンにハロルは肩透かしを食らってしまった。そんなハロルを尻目に、ミーンは前に出る。

「ブロン君が水やりしてくれてたの?」
「あ、ああ。そうだ」
「どうして? お花、嫌いになっちゃったかと思った」

 まっすぐ見つめるミーンのまなざしから気まずそうに視線を逸らす。

「みんなで考えたんだよ。どうして花があんなことになったんだろうって。どう考えても俺が踏みつぶしたのがいけなかったよなって……こいつらもそうだなって言ってさ」

 ブロンの横に居る二人はこくこくと頷いた。

「俺らはよくわかんないけど、でも俺が踏んだから花は痛いって叫んだし、燃やしたからデカくなって仕返ししてきたんだと思う。それに、あのときミーンはケガしなかった。なんでかなって考えたら、やっぱり花にやさしくしてきたからだろうって」

 隣の二人もうんうんと頷いている。彼らは虚構士ではない。だから未知を恐れる。既知の中で生きようとする。訳のわからないことは、ずっとわからないままだ。しかし、過去から教訓を得ることは出来る。それは、虚構士としてではなく、人間として備わった機能だ。それをこの三人は正しく使うことが出来たのだ。

「花に命があるとか、それはやっぱりわかんねえ。今でも。けど、ミーンが正しいことをしてたってのだけはわかったんだ。だから俺もしようと思って……あと、そのなんだ。ちゃんと謝る前にミーンが居なくなっちまったから、罪滅ぼしじゃあないけどさ」

 どんどんと声が小さくなっていく。ミーンは徐々にブロンに近寄っていく。俯き加減のブロンとミーンの視線が交わった。彼女は大輪の花を咲かせる。

「ありがとう!」

 ブロンの顔が赤くなるのを見て、ハロルは咳払いをして二人の間に立った。

「じゃあオレらは師匠のところへ帰らなきゃいけないんでな。引き続き花の世話を頼むぜ、ブロン」

 キョトンとするミーンの手を引いた。

 ブロンはなにか言いたげだったが、言わせてなるものかという感情のままに、ミーンを攫って風に乗った。