アシオンに戻った一行は、さっそく今回の事件の調査の結果を報告しに行った。

 謁見の間でスーは王を相手取り一歩も引かずに滔々と語り尽くした。
 問題のドラゴンは倒したこと。今回の事件はエノスの虚構士の仕業であったこと。それが戦争の火種を作るために行った策謀であり、エノスの宰相が裏で手引きしていたこと。虚構術の使用許可証を発行していればこのように相手の術中にはまらなかったこと。また、エノスはアシオンが虚構士に対して冷遇していることを知っていたから今回の作戦を企てられたこと。

「エノスは物資の少ない弱小国ではありますが、虚構士を本気で育てています。もしも戦争になれば、負けてしまうでしょう」

 スーは虚構士の社会的地位の向上を訴えた。そして、夢見子への差別と偏見の根絶も。それが約束されない限りは、いつまでも軍事力の低い国家として、他国に目をつけられてしまう。今回のように。
 本来スーは虚構士の軍事利用はして欲しくないと考えている。しかしながらなんのリスクもなしに地位の向上を行うことは不可能だと知った。エノスの謀略を知って、より強く思ったのだ。ならばまずは地位向上のために、軍事利用もやむなしと考え、この度王に打診した。もちろんすぐにこの国の風土が改善されるとは思っていないが。

「それからエノスが今回戦争に踏み切ろうとした理由には自国の生産力の低さのみならず、他国から不利益な貿易を強いられていることが主な要因と言えるでしょう。アシオンとしてはエノスを攻め落としてもなんのメリットもありませんから、貿易規制の緩和などの処置を取り、友好国に導いてはどうでしょうか。そうすればエノスより南に在る国からのバッファゾーンを得ることにもなりますし」

 地政学的根拠をも踏まえた助言は、少しばかり出しゃばりだったが、王はそれを不快とは思わなかったようで、鼻を鳴らすに留めた。

「わしは虚構士は好かんが、さておきお前は頭がいいな。虚構士をやめるなら王宮で働かせてやるが」

 王は玉座から動かず肘を突いたまま、ただ気分が乗ったから言ってみたという程度の雰囲気で話している。

「ありがたいお言葉ですが、僕は虚構士ですので」
「そうか。まあ、お前だけの地位を向上しても仕方ないわけだな。お前が虚構士として王宮で働けるような役職を作れるよう、少し考えてみよう。此度は誠にご苦労であった」
「もったいなきお言葉。痛み入ります」

 頭を下げると、王は肘掛けに手を突いた。

「あ、そうでした」
「まだなにかあるのか?」

 立ち上がりかけていた王が再び腰を下ろす。

「仰せの通り、謀《たばか》りを見抜き、戦わずに生還して参りました。ナガーの働きのおかげです。今後もしも僕が王宮で働けるのであれば、彼女に護衛をして頂きたいです」

 スーに対して戦うなと言った王に対する皮肉である。王はこれには片眉を吊り上げる。

「まったく、これだから虚構士は好かん」

 ゆっくりと深いため息が流れる。

「……だが、まあ。良いだろう。それは約束する」

 スーは眼鏡の奥の目を細め、片手を肩に置き恭しく礼をして見せた。