ハロルとミーンはただポカンと見上げていた。

 入れ替わったハロルがドリシエに体当たりしたと思ったら、二人は木の中に飲み込まれるようにして消えたのだ。
 そしてその中からハロルだけが弾き出された。銀髪赤眼の少女——ハロルが。

 困惑していたハロルにミーンが駆け寄って来て、胸に飛び込むとわんわん泣いた。それをあやすようにオリーブの髪を撫ぜていると、不意に樹木が光り出して、急速な成長をしたのだ。呆気に取られて見ていると、木の枝の先から多種多様な果実が生え渡り、甘くて瑞々しい香りが辺りを覆い始めた。

「いったいなんなんだ、これ」
「さあ……?」

 二人で顔を見合わせる。そして大事なことに気付く。

「師匠!」
「お師匠さま!」


※  ※  ※  ※


 二人は街を走っていた。広場にはもう人だかりが出来ている。だがここで突っ込んで行っても、スーの処刑は止められないだろう。
 ハロルは建物の陰に隠れて、創筆を躍らせた。

「ミーン、手伝ってくれ」

 ミーンは頷いて創筆を動かす。二人は以心伝心。なにも言わずともなにをやるのかがわかっていた。お互いに言葉の上に言葉を重ねていく。それは緻密で綺麗な積み木のよう。
 二人が書き終わると、首肯し合って広場の中心へ創作物を放った。

 広場が不意にどよめく。

「なんだあれは!?」
「嘘!?」
「きゃああ!」

 人々が混乱する中、アミトラの声が響いた。

「ご安心ください! あれは私の弟子のドリシエのドラゴンです」

 夜を纏ったドラゴンが翼を羽ばたかせ、広場のその一帯だけを夜に変えていた。
 ひとまず民衆の混乱は収まった。しかしドラゴンは広場に降り立つと、尻尾で王の胸像を薙ぎ、けたたましい咆哮を上げ、上空へ炎を撒いた。
 再び混乱が始まる。

「な……! なああああ!?」

 アミトラの間の抜けた声に、王の怒号が被さる。

「アミトラよ! あれはドリシエのドラゴンではないのか!?」
「え、いや、いやそうですがしかし、なぜあんな」

 二人が諍いを起こしているさなかに、ハロルは裏から回り込み、スーが縛り付けられている断頭台に躍り出た。

「ハロル」
「師匠。待ってろよ」
「ミーンは?」
「建物の陰で待たせてある」

 彼を縛っていた鎖と手錠、足枷を虚構術で外していく。

「少し見ない間に、立派になりましたねえ」

 弟子の成長を微笑ましく話す師にハロルは眉を(ひそ)めた。

「ったく、師匠の図太さには恐れ入るぜ」

 ハロルは手を引いてスーを連れ出そうとするが、彼は立ち止まった。

「師匠、早くしねえと……!」
「ハロル。君にお願いがあります」

 スーは姿勢を低くしてハロルに耳打ちをした。