光の届かない洞窟の中に閉じ込められた。
スーはアミトラに連れていかれ、離れ離れになった。ハロルとミーンは創筆と身につけていたものを衣服ごとすべて奪い取られ、洞窟に入れられた。大きな岩で出口を塞がれ、光もない。
「出しやがれこの野郎!」
ハロルは最初こそ暴れ回っていたが、びくともしない岩に背中を預け、動けなくなってしまった。
そして岩に体を預けていると向こうから兵士たちの話し声が聞こえた。
「こいつらはこのまま閉じ込めて餓死させるらしいが、もう一人の方はどうするつもりなんだろうな? レオフェ殿が連れて行ったが」
「なんでも虚構士として同期のアミトラ・レオフェとスー・レフォストとの間には浅からぬ因縁があるともっぱらの噂だ。明日の昼、処刑すると言っていたな」
「俺たちは因縁に巻き込まれたのか」
「そりゃどうかわからん。だがまあ国際問題だからな。罰を与えるのは当然だろうよ」
岩を伝わって来た声は酷くくぐもっていたが、内容は明確に聞き取れた。
処刑。ハロルは焦りを禁じえなかったがミーンを心配させてはいけない。一呼吸も二呼吸も置いてミーンに向かって声を掛ける。
「ミーン、大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」
返事が遅いのが気になったが、この闇の中では彼女の正確な安否を窺うことも出来ない。せめて創筆さえあれば、転がっている石を光らせることくらいは出来る。だが、外に出なければそれも無理だ。
あのドリシエと言う少女は本物のハロルは創筆なしで虚構術を操れると言っていた。そんなことが可能なのかと聞かれれば無理だと答えるだろう。数時間前までなら。ドリシエは創筆を使わずに虚構術を使っていたのだ。ならば彼女の言う本物のハロルという人間は、そんなことも可能なのだろう。
(そう言えば)
ドリシエがハロルの特徴を行ったとき、ミーンは酷く驚いていた。
「ミーン」
「……なに?」
「ドリシエが本物のハロルについて話してたとき、なにか思い当たることがあったのか?」
ミーンは黙り込んでしまう。
「オレが知らないことを知っているなら話してくれ」
「あのとき」
言葉が切れる。ハロルはミーンの次の言葉を待った。
「あの、ハロルがお花を助けようとしてくれたとき、ハロル、いきなり倒れたでしょ?」
「ああ。そのときのことは覚えてないんだ。どうやら正常じゃあなかったらしいな」
「うん。呼びかけても答えてくれないし……髪の色と目の色が変わっていたの」
「……金髪青眼にか」
「うん。それに、創筆を使わずに虚構術を使ってたの」
ハロルは唸った。完全にドリシエが言っていたハロル像と一致する。
そしてそれは自分の中に居る。並外れた力を持っているやつが。
「ねえ、ハロル」
「なんだ」
「ハロルはハロルだよ。ドリシエが知ってるハロルが本物なんじゃあなくて。多分ドリシエは違うハロルと仲が良かっただけなんじゃあないかな?」
「仲が良かった?」
「だって、ハロルを奪ったやつはって言ってたから」
「そう言えばそんなこと言って——」
そのとき不意に、頭痛に襲われた。
「ぐっ……!」
「ハロル?」
ミーンの呼びかけに声を返すことが出来ない。頭の中のかさぶたがべりべりと剥がされていく。塞がっていた記憶の液体がドロドロと溢れ出す。
「ハロル! 大丈夫!?」
石が転がる音がした。暗闇の中で必死にハロルを探しているようだった。
激痛と共に瞼の裏には景色が浮かんでいた。
それは、水辺に映った自身の顔を見つめる自分。しかしハロルのよく知る自分ではなく、そこに映り込んでいるのは、金髪青眼の少年だった。傷だらけの。
スーはアミトラに連れていかれ、離れ離れになった。ハロルとミーンは創筆と身につけていたものを衣服ごとすべて奪い取られ、洞窟に入れられた。大きな岩で出口を塞がれ、光もない。
「出しやがれこの野郎!」
ハロルは最初こそ暴れ回っていたが、びくともしない岩に背中を預け、動けなくなってしまった。
そして岩に体を預けていると向こうから兵士たちの話し声が聞こえた。
「こいつらはこのまま閉じ込めて餓死させるらしいが、もう一人の方はどうするつもりなんだろうな? レオフェ殿が連れて行ったが」
「なんでも虚構士として同期のアミトラ・レオフェとスー・レフォストとの間には浅からぬ因縁があるともっぱらの噂だ。明日の昼、処刑すると言っていたな」
「俺たちは因縁に巻き込まれたのか」
「そりゃどうかわからん。だがまあ国際問題だからな。罰を与えるのは当然だろうよ」
岩を伝わって来た声は酷くくぐもっていたが、内容は明確に聞き取れた。
処刑。ハロルは焦りを禁じえなかったがミーンを心配させてはいけない。一呼吸も二呼吸も置いてミーンに向かって声を掛ける。
「ミーン、大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」
返事が遅いのが気になったが、この闇の中では彼女の正確な安否を窺うことも出来ない。せめて創筆さえあれば、転がっている石を光らせることくらいは出来る。だが、外に出なければそれも無理だ。
あのドリシエと言う少女は本物のハロルは創筆なしで虚構術を操れると言っていた。そんなことが可能なのかと聞かれれば無理だと答えるだろう。数時間前までなら。ドリシエは創筆を使わずに虚構術を使っていたのだ。ならば彼女の言う本物のハロルという人間は、そんなことも可能なのだろう。
(そう言えば)
ドリシエがハロルの特徴を行ったとき、ミーンは酷く驚いていた。
「ミーン」
「……なに?」
「ドリシエが本物のハロルについて話してたとき、なにか思い当たることがあったのか?」
ミーンは黙り込んでしまう。
「オレが知らないことを知っているなら話してくれ」
「あのとき」
言葉が切れる。ハロルはミーンの次の言葉を待った。
「あの、ハロルがお花を助けようとしてくれたとき、ハロル、いきなり倒れたでしょ?」
「ああ。そのときのことは覚えてないんだ。どうやら正常じゃあなかったらしいな」
「うん。呼びかけても答えてくれないし……髪の色と目の色が変わっていたの」
「……金髪青眼にか」
「うん。それに、創筆を使わずに虚構術を使ってたの」
ハロルは唸った。完全にドリシエが言っていたハロル像と一致する。
そしてそれは自分の中に居る。並外れた力を持っているやつが。
「ねえ、ハロル」
「なんだ」
「ハロルはハロルだよ。ドリシエが知ってるハロルが本物なんじゃあなくて。多分ドリシエは違うハロルと仲が良かっただけなんじゃあないかな?」
「仲が良かった?」
「だって、ハロルを奪ったやつはって言ってたから」
「そう言えばそんなこと言って——」
そのとき不意に、頭痛に襲われた。
「ぐっ……!」
「ハロル?」
ミーンの呼びかけに声を返すことが出来ない。頭の中のかさぶたがべりべりと剥がされていく。塞がっていた記憶の液体がドロドロと溢れ出す。
「ハロル! 大丈夫!?」
石が転がる音がした。暗闇の中で必死にハロルを探しているようだった。
激痛と共に瞼の裏には景色が浮かんでいた。
それは、水辺に映った自身の顔を見つめる自分。しかしハロルのよく知る自分ではなく、そこに映り込んでいるのは、金髪青眼の少年だった。傷だらけの。