村長に用意してもらった空き家を借りて、そこのベッドにナガーを寝かしつけた。先ほどハロルが世話になった部屋だ。
介抱のために防具を外すとボディタイツにピッタリと包まれた鍛えられた体が露わになった。
「この服、苦しくないか?」
ハロルはナガーのパンパンに張りだした胸を見つめて呟いた。
「背中のあたりにファスナーがある、それを」
ハロルは彼女の体を横向きにすると、背中に有ったファスナーを下ろした。腰の辺りまで下げて、ガバッと開く。尻の谷間が垣間見え、慌てて目を逸らした。
再度仰向けになったナガーは安心したようにゆっくりと息を吐いた。張りつめていた胸も解放され、トロンと蕩けるように重力に身を任せている。
「ドミドミは馬車を狙いに行ったな」
「どうしてわかるんだ?」
「やつの走り去って行く方向がそちらだった」
一同驚嘆の息を漏らす。あの状況下で、ケガをしていたナガーの方が、敵の動きを見落とさなかったのだ。
「それにやつは乗って来たドラゴンから降りた。やつの運動神経から言って、走って帰れないこともないだろうが、ここからエノスまでは時間が掛かるからな」
ハロルは苦々しい思いを打ち付けるように、自分の太ももを拳で叩いた。
「ハロル」
スーがハロルの拳を包んだ。彼を見上げると、いつもは小麦畑のような印象を受けるやわらかな瞳が、稲光のような鋭さを持っていた。
スー自身、ナガーに頼り切ってしまったことを悔いているのかも知れない。
「これからどうすればいいの?」
ミーンがベッドの横にガラス製のピッチャーをことりと置いて、心配そうに呟いた。
「馬車は持ってかれるし、ナガーは手当てしないとまずいし、一旦帰るしかなくねえか?」
ハロルは頭の後ろで手を組んで天井を見上げた。
「全員でエノスへ乗り込みましょう」
言ったのはスーだ。これにハロルは席を立ち上がって両腕を開いた。
「どうしたんだよ師匠。頭に血が上ってんのか? ナガーの手当てが先だろう」
「だからこそです」
言い切るスーにハロルは首を傾ける。
「どういうことだ」
スーは顎に指を掛けて、ハロルが座った椅子の周りをゆっくりと歩き始めた。
「ナガーの手当てが最重要。これは確実です。しかし、このままアシオンに戻ったところで解毒薬が見つかるとも限りません。心臓を止めるまでに7日間かかる麻痺薬などアシオンでは聞いたこともありませんからね」
「でもそれはエノスに行っても同じなんじゃあねえの?」
「確かにエノスの医療技術がアシオンより優れているとは思えません。ですが、ドミドミが毒を所持していたのは、エノスではありふれたものだからなのかも知れません。例えばエノスに自生する植物由来の毒だとか。もしもその毒が医療目的或いは軍事目的などで日常的に使われているのなら、解毒薬が開発されていてもおかしくはないでしょう。仮にドミドミが独自に調合したものなら、彼が解毒薬を持っている可能性が有ります。間違って自分に毒を刺してしまったときのための備えとして携帯しておくのが必然でしょうから」
ハロルは深々と頷いた。そして拳を強く握りしめる。
「さっすが師匠。なら、とにかくドミドミを探してぶっ飛ばしゃあいんだな! ……んでもさ、あの野郎を簡単に見つけられるのか?」
「向こうから来るでしょう」
「なんで?」
「彼はあまりしゃべるのが得意な方ではなさそうでした。だと言うのに去り際、毒の効能と具体的なタイムリミットを述べるだけではなく、アミトラとドリシエの名まで出し、果ては自分がこれから行く場所までを丁寧に教えたのです。これの意図するところは一つ。誘導です」
「それじゃあわざわざ罠に掛かりに行くってことか?」
「そう言うことになります。しかし我々は行かざるを得ない。そう言う局面に差し掛かって——」
「だったら」
言葉を切ったのはナガーだった。
「お前たちが行く必要はない。私は護衛だ。お前たちを危険にさらすくらいなら、このままここで死んだ方がマシだ。それにこのことをアシオンにも伝えければならないだろう?」
スーはナガーに向き直って首を振る。
「心配要りません。恐らく彼は僕たちを殺したいわけではないからです」
「どうして言い切れる?」
「あのとき、僕らの壊滅が彼の目論見なら、ナガーが戦闘不能になったときに全員殺されていたでしょう」
ハロルが唾を飲み込むと、ミーンがポンチョの裾をきゅっと摘まんできた。不安げな顔を上げ、見つめている。掌を彼女の頭に置いて、ポンポンと軽く叩く。
「彼は強い。仮に我々が全員同時に虚構術を使おうとしても勝つことは出来なかった。彼、もしくはその後ろにいるであろうアミトラとドリシエと言う人物が、我々に接触したがっているのだと思います。どういうわけかはわかりませんが」
「アミトラか」
「別人の可能性もありますが、もしもアミトラ・レオフェであった場合、彼女をここに連れてきましょう」
ナガーは目をみはった。虚を突かれてなにも言えない彼女に代わり、ハロルが疑問を口にする。
「連れてきてどうすんだよ」
「彼女を断罪する権利は、ナガーがお持ちでしょうから」
ナガーの紺色の瞳が揺らめく。
「驚いたな」
そこには動揺と感嘆が入り混じっていた。
「お前のようにおっとりした人間から、そのような言葉を聞くとは」
ナガーの言葉にスーは笑顔を深めた。
介抱のために防具を外すとボディタイツにピッタリと包まれた鍛えられた体が露わになった。
「この服、苦しくないか?」
ハロルはナガーのパンパンに張りだした胸を見つめて呟いた。
「背中のあたりにファスナーがある、それを」
ハロルは彼女の体を横向きにすると、背中に有ったファスナーを下ろした。腰の辺りまで下げて、ガバッと開く。尻の谷間が垣間見え、慌てて目を逸らした。
再度仰向けになったナガーは安心したようにゆっくりと息を吐いた。張りつめていた胸も解放され、トロンと蕩けるように重力に身を任せている。
「ドミドミは馬車を狙いに行ったな」
「どうしてわかるんだ?」
「やつの走り去って行く方向がそちらだった」
一同驚嘆の息を漏らす。あの状況下で、ケガをしていたナガーの方が、敵の動きを見落とさなかったのだ。
「それにやつは乗って来たドラゴンから降りた。やつの運動神経から言って、走って帰れないこともないだろうが、ここからエノスまでは時間が掛かるからな」
ハロルは苦々しい思いを打ち付けるように、自分の太ももを拳で叩いた。
「ハロル」
スーがハロルの拳を包んだ。彼を見上げると、いつもは小麦畑のような印象を受けるやわらかな瞳が、稲光のような鋭さを持っていた。
スー自身、ナガーに頼り切ってしまったことを悔いているのかも知れない。
「これからどうすればいいの?」
ミーンがベッドの横にガラス製のピッチャーをことりと置いて、心配そうに呟いた。
「馬車は持ってかれるし、ナガーは手当てしないとまずいし、一旦帰るしかなくねえか?」
ハロルは頭の後ろで手を組んで天井を見上げた。
「全員でエノスへ乗り込みましょう」
言ったのはスーだ。これにハロルは席を立ち上がって両腕を開いた。
「どうしたんだよ師匠。頭に血が上ってんのか? ナガーの手当てが先だろう」
「だからこそです」
言い切るスーにハロルは首を傾ける。
「どういうことだ」
スーは顎に指を掛けて、ハロルが座った椅子の周りをゆっくりと歩き始めた。
「ナガーの手当てが最重要。これは確実です。しかし、このままアシオンに戻ったところで解毒薬が見つかるとも限りません。心臓を止めるまでに7日間かかる麻痺薬などアシオンでは聞いたこともありませんからね」
「でもそれはエノスに行っても同じなんじゃあねえの?」
「確かにエノスの医療技術がアシオンより優れているとは思えません。ですが、ドミドミが毒を所持していたのは、エノスではありふれたものだからなのかも知れません。例えばエノスに自生する植物由来の毒だとか。もしもその毒が医療目的或いは軍事目的などで日常的に使われているのなら、解毒薬が開発されていてもおかしくはないでしょう。仮にドミドミが独自に調合したものなら、彼が解毒薬を持っている可能性が有ります。間違って自分に毒を刺してしまったときのための備えとして携帯しておくのが必然でしょうから」
ハロルは深々と頷いた。そして拳を強く握りしめる。
「さっすが師匠。なら、とにかくドミドミを探してぶっ飛ばしゃあいんだな! ……んでもさ、あの野郎を簡単に見つけられるのか?」
「向こうから来るでしょう」
「なんで?」
「彼はあまりしゃべるのが得意な方ではなさそうでした。だと言うのに去り際、毒の効能と具体的なタイムリミットを述べるだけではなく、アミトラとドリシエの名まで出し、果ては自分がこれから行く場所までを丁寧に教えたのです。これの意図するところは一つ。誘導です」
「それじゃあわざわざ罠に掛かりに行くってことか?」
「そう言うことになります。しかし我々は行かざるを得ない。そう言う局面に差し掛かって——」
「だったら」
言葉を切ったのはナガーだった。
「お前たちが行く必要はない。私は護衛だ。お前たちを危険にさらすくらいなら、このままここで死んだ方がマシだ。それにこのことをアシオンにも伝えければならないだろう?」
スーはナガーに向き直って首を振る。
「心配要りません。恐らく彼は僕たちを殺したいわけではないからです」
「どうして言い切れる?」
「あのとき、僕らの壊滅が彼の目論見なら、ナガーが戦闘不能になったときに全員殺されていたでしょう」
ハロルが唾を飲み込むと、ミーンがポンチョの裾をきゅっと摘まんできた。不安げな顔を上げ、見つめている。掌を彼女の頭に置いて、ポンポンと軽く叩く。
「彼は強い。仮に我々が全員同時に虚構術を使おうとしても勝つことは出来なかった。彼、もしくはその後ろにいるであろうアミトラとドリシエと言う人物が、我々に接触したがっているのだと思います。どういうわけかはわかりませんが」
「アミトラか」
「別人の可能性もありますが、もしもアミトラ・レオフェであった場合、彼女をここに連れてきましょう」
ナガーは目をみはった。虚を突かれてなにも言えない彼女に代わり、ハロルが疑問を口にする。
「連れてきてどうすんだよ」
「彼女を断罪する権利は、ナガーがお持ちでしょうから」
ナガーの紺色の瞳が揺らめく。
「驚いたな」
そこには動揺と感嘆が入り混じっていた。
「お前のようにおっとりした人間から、そのような言葉を聞くとは」
ナガーの言葉にスーは笑顔を深めた。