ゆったりとした時間の流れる深夜。
 時計の秒針音が、寝室に静かに鳴り響く。

 ぼさぼさの髪を一つに結び、ヘアピンで前髪を留める私の腕の中には、幼い命が懸命に今を生きようと、私の乳房を吸っている。

 きらきら星をゆっくりと口ずさんで、ゆりかごのように揺れながら、私は目を瞑った。
 赤子の甘い香りが鼻を掠める。

「髪の毛、結び直してあげるわよ。可愛いヘアゴム使ってあげる」
「いいよ〜。もう子どもじゃ無いんだから」
「お腹大きいんだから。甘えて良いのよ。ほらぁ」

 母の手の感触。私の髪を櫛でとかしてくれたあの日の柔らかな時間。思い出すのは、淡いパステル調に染まる幸せな瞬間ばかりだ。

 ふと目を開けると、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。夜空には、新月から三日月へ満ち欠ける月が咲いている。

「ねえ、見てごらん。とっ〜ても細いわよ」

 今、ここに母がいたら。
 母がいたらきっとそう言って、くすくすとお茶目に笑うだろう。

 うん、私は大丈夫だ。

 この地球が続く限り、いつだって、遠い遠いお月さまの灯りに照らされて、守られているんだから。