呪いの話が終わったあとは5人でお茶を飲みながら楽しく話をしました。
特にイネス公女様が家族のことを嬉しそうに話してくれるあたり、家族の絆が強いのでしょう。
……なんだか、少しだけうらやましいです。
「……どうかしましたか? シント様もリン様も少し悲しげな顔をしています」
ああ、いけない。
イネス公女様も神眼持ちでした。
すぐに考えがばれてしまいますね。
嘘をついてもばれてしまいますし、素直に白状しましょうか。
「僕とリンは迫害を受けて育ってきたのです。そのため、家族の絆というものを知らず……」
「うん。私なんて両親の顔すら知らないからうらやましいなって」
「あっ、その……ごめんなさい」
「気にしないでください、イネス公女様。いまは僕たちも里に帰ればたくさんの仲間がいますから」
「血の繋がった家族じゃないけど家族みたいなものよ。みんなね」
「そうでしたか。……でも、話題は選ばなくちゃいけませんね」
「もう一度言いますが気にしないでください。僕たちも家族の絆というものに興味はありましたから」
「うん。親も知らない私だけど、話を聞いているだけで嬉しそうだなって感じちゃうもん」
「……よかったです。命の恩人に不快な思いをさせないで」
イネス公女様は気に病んでしまったようですが、僕は本当に気にしていません。
リンだってそうでしょう。
ほんの少しだけ、うらやましいと感じていただけです。
「そう言えばそろそろお昼ですね。皆様、お食事はどうなさいますか?」
「大丈夫です、プリメーラ公女様。僕たちは自分たちで用意してありますから」
「そうね。というか、この街の料理って私たちの口には合わなくって……」
「俺たちの里じゃ野菜か魚しかないんだよ。テーブルマナーを気にしなくていい肉料理をこの間頼んだんだが……臭み消しなのかやたらと香草の味がきつくてよ。里の連中に頼んで昼食も用意してもらうことにしたんだ。大きめのパンにゆでたり焼いたりした野菜を挟んだものと果物だけだがな」
「そうでしたか。ですがテーブルマナーは覚えておいても損はありませんよ? 勉強だと考え一緒にお食事はいかがでしょう」
「はい。私ももっとお話したいです」
「どうします、ふたりとも?」
「誘われちゃ、ね?」
「本当に田舎者だから基本からになっちまうが……公女様たちに教えてもらっていいものなのか?」
「気にしませんよ。では、私たちも含め5名分の昼食を用意していただきましょう」
そのあとは本当にプリメーラ公女様直々にテーブルマナーを教えていただきました。
いろいろと細かいところがあり大変でしたし使う機会があるのかは疑問ですが、確かに覚えておいても損はないでしょう。
またなにかの縁でプリメーラ公女様やイネス公女様にお目にかかることがあるかもしれませんし。
「皆様、初めてにしてはお上手でした。あとはこれを練習していただければ完璧になるのですが……使う機会があまりないでしょうね」
「せっかく教えていただいたのですが……そうなります」
「私たちの里じゃそもそも〝肉料理〟っていうものがないもんね」
「魚だって頼めばある程度手に入るだろうが滅多に食わねぇ。野菜と果物ばかりの生活だがそれで飽きないからなぁ……」
「そうなんですか? 皆様の持っていらした昼食というものに興味が出てまいりました」
「こら、イネス!」
「構いませんよ。ですが、僕も詳しくはないのですが地位のある方がそのまま食べるのはまずいのでは?」
「毒味役もおりますが皆様のことは疑いません。イネス、神眼も使っていますね?」
「え? 皆様を神眼で疑ってしまうのは……」
「だめですよ、イネス公女様。神眼は常に使うくらい慎重でないと」
「うん。私たちみたいな田舎者がこの街でうまくやっていけているのもそのおかげだからね」
「ひょっとしてシント様もリン様も……」
「はい。神眼持ちです」
「でも、神眼に頼り過ぎちゃだめよ? あと私たちが神眼持ちなのは内緒ね?」
「はい!」
うん、イネス公女様は元気ないい子です。
神眼は悪用すれば危険なものらしいですが、イネス公女様なら悪用しないでしょう。
「それで、昼食を分けてやる件はどうする? さすがに全部食べさせるのは食べすぎになっちまうと思うんだが」
「興味があるようですし少しずつだけでも食べていただきましょう。果物は元々そこまで多く持ち込んでいませんし」
「それもそうだな。というわけで、こいつが俺たちの昼食予定だったパンと果物だ。パンは多いだろうから切ってもらってくれ」
「わかりました。誰か、このパンを……一口サイズに切ってください」
プリメーラ公女様はほかの方にベニャトが出したパンを切り分けてもらい、イネス公女様と一緒に口の中に運びました。
すると、おふたりはとても驚いた表情を見せましたね。
「すごいです! お野菜なのに苦みがほとんどなくて甘い!」
「それにとってもみずみずしい……これが〝里〟の力……」
「そうなってしまいます。果物の方もどうぞ。甘くて美味しいですよ?」
「では失礼して……こちらもとっても甘いです!」
「本当に。うまさが凝縮されてできた果物ですね……これでは、私たちの国の食材でも口に合わないでしょう」
「そういうわけでもないのですが……肉料理はちょっと」
「普段食べないせいもあるのか独特の臭みがねぇ……」
「俺らドワーフ仲間も昔はたまに狩りをして鹿やイノシシを食ってたんだが、こいつらの里に行ってからこの野菜と果物を食べるようになって肉なんてどうでもよくなってなぁ」
「なるほど、パンもそれ自体に香りがついていて柔らかく美味しいです。これに慣れてしまっては香草で臭みを消した肉料理は厳しいでしょうね」
うーん、僕たち贅沢をしすぎているのでしょうか?
メイヤには散々甘やかされている自覚があるのですが……。
「プリメーラお姉様、この方々の里にあるお野菜や果物を輸入できませんか?」
「イネス、無理を言ってはいけません。あなたも食べたいのでしょうが、この方々の里は遠くにあるのです。今回はマジックバッグを使っているからこそ食べられるもの。今回だけと考え我慢なさい」
「……申し訳ありません、わがままを言いました」
「僕たちは気にしていませんよ。ただ、この野菜が流入してしまうのはまずいのでは?」
「そうですね。クエスタ公国は農業国です。その国が自分たちの国以上に品質の高い農作物を仕入れていると知られては面目が立たないでしょう」
「そうですよね。私たちの国でもこれを目指さないと!」
「ええ、応援しかできませんが頑張ってください」
「大変だと思うけど頑張ってね」
こうして昼食も終わり午後の時間も5人で話をすることに。
イネス公女様が出してきた話題は彼女の治療費についての話題でした。
「あの、プリメーラお姉様。私の治療費は高かったのではないでしょうか?」
「ああ、ええと……」
「神眼使い相手に嘘は通じませんよ、プリメーラ公女様。僕たちがプリメーラ公女様に要求したのはイネス公女様のことを大切にしてもらうことです」
「プリメーラお姉様が私のことを?」
「はい。プリメーラ公女様はあなたの治療費としてとても大きなものを用意してくださろうとしました。ですが、それをいただくよりは姉妹仲良く過ごしていただく方が僕としては嬉しいですから。リンもベニャトも反対しませんでしたし、それでいいのです」
「……嘘はありませんでした。プリメーラお姉様、本当にそれだけで私を治療していただけたのですか?」
「ええ、そうよ。私があなたを大切にすること、それが治療の条件。あなたが間違った方向に行こうとすれば私が容赦なく道を正すわ。だから、あなたは正しい道を歩んでね」
「……ありがとうございます。私たちの命を高く評価してくださり」
「気にしないでください。……それにお金はもらっても使い道がないのですよ」
「使い道がない?」
「私たちってベニャトが売っているアクセサリーでそれなりに稼いじゃっているんだけど……使い道がいまのところないのよね」
「ああ。俺たちの里じゃ街の金なんて必要ない。最初の頃こそいろいろ買いそろえていたがいまじゃそれも必要なくなってきた。ウォルクの店で買い取ってもらっているアクセサリーの代金が相当貯まってきててな……いい使い道を知らねえか?」
僕たちのその言葉に信じられないという表情を浮かべたふたりですが……プリメーラ公女様は僕たちの正体も知っていますし、お金の必要性がないこともわかるのでしょう。
意を決したように確認してきました。
「そのお金、私たちの国で使っていただけるのでしょうか?」
「そうしたいです。元々このお金はアクセサリーショップ、ヒンメルのウォルクさんからいただいているもの。この街や国にお返ししたいというのが本音ですから」
「それに私たちってほかの国に行かないのよね」
「それ以上にこの街以外にも行かねぇ。なにか案があるのか、プリメーラ公女様?」
「あります。ありますが……個人のお金で解決してもよろしいかどうか」
「なんでしょう。話だけでも聞かせてください」
「では……皆様は〝孤児院〟という場所をご存じですか?」
「〝孤児院〟……すみませんが知りませんね」
「俺は聞いたことがある。人の街で親がいなくなった子供を大人になるまで預かる場所だったな」
「ベニャト様の言う通りです。孤児院にも国の政策としてお金を配布しております。ですが、街や孤児の多さに比べてしまうと足りていないのが現状。私たちもなんとかしたいのですが、国政に絡むことになってしまうのでなかなか手を出せず……」
「ふむ。いいんじゃねえか? シント、リン」
「そうですね。親がいない子供のためならいい使い道でしょう」
「うん。私も親がいなかったし苦しい生活だった。でも、身勝手で一時的なことだとしても助けてあげられるなら助けたいな」
「よかった……これで、この街の状況も少しは改善できます」
「え? この街はそんなに状況がよくないのですか?」
「……正直よくありません。外国から訪れる者も多く、その中にはこの街に子供を置き去りにする者もいるのです。この街の行政庁もそのような者たちには目を光らせていますし、孤児院には国だけではなく行政庁からもお金が出ています。それでも足りないのが現状でして」
「わかりました。僕たちにできることであればできる範囲でお手伝いいたします」
「そうだね。ベニャトもいい?」
「俺たちが作ったアクセサリーで喜ぶ子供が増えるなら本望だ。なにがしてほしいんだ、プリメーラ公女様よ?」
「これから冬になります。子供たちに冬用の衣服と毛布を可能なだけ買い与えてはいただけませんか?」
「そんなことか。構わないぜ。持ち金で俺たちが使う分を除いたあとはすべてそっちに回してやる」
「それがいいね」
「ええ、いいでしょう。ほかに望みはありますか?」
「……厚かましいお願いですが、食料を買うお金が残っていれば食料も配布していただきたいです。多くの孤児たちは十分な量の食事ができていないと聞きますので」
食事、食事ですか……。
神樹の里の生産能力をフル活用すればいくらでも用意できますが、メイヤの許可がいりますね。
これは少し待っていただきましょう。
「食事については少しお待ちください。出所を明かさずときどき来るだけ、という条件でいいのならば可能かもしれません。里長の許可が出ればの話になりますが」
「私たちの一存じゃ決められないもんね」
「そういうことだ。衣服と毛布は手の届く範囲でなんとかする。食料については俺たちが里に帰ってから里長と交渉。ただ、俺も人里のルールには詳しくないが勝手にこういう真似をするのはまずいんだろう? どうすりゃいい?」
「そこの交渉は私……いえ、イネスに任せます。私も補佐いたしますのでお任せください」
予定外ですがお金の使い道は決定ですね。
あとはイネス公女様とプリメーラ公女様に交渉をお願いしましょう。
特にイネス公女様が家族のことを嬉しそうに話してくれるあたり、家族の絆が強いのでしょう。
……なんだか、少しだけうらやましいです。
「……どうかしましたか? シント様もリン様も少し悲しげな顔をしています」
ああ、いけない。
イネス公女様も神眼持ちでした。
すぐに考えがばれてしまいますね。
嘘をついてもばれてしまいますし、素直に白状しましょうか。
「僕とリンは迫害を受けて育ってきたのです。そのため、家族の絆というものを知らず……」
「うん。私なんて両親の顔すら知らないからうらやましいなって」
「あっ、その……ごめんなさい」
「気にしないでください、イネス公女様。いまは僕たちも里に帰ればたくさんの仲間がいますから」
「血の繋がった家族じゃないけど家族みたいなものよ。みんなね」
「そうでしたか。……でも、話題は選ばなくちゃいけませんね」
「もう一度言いますが気にしないでください。僕たちも家族の絆というものに興味はありましたから」
「うん。親も知らない私だけど、話を聞いているだけで嬉しそうだなって感じちゃうもん」
「……よかったです。命の恩人に不快な思いをさせないで」
イネス公女様は気に病んでしまったようですが、僕は本当に気にしていません。
リンだってそうでしょう。
ほんの少しだけ、うらやましいと感じていただけです。
「そう言えばそろそろお昼ですね。皆様、お食事はどうなさいますか?」
「大丈夫です、プリメーラ公女様。僕たちは自分たちで用意してありますから」
「そうね。というか、この街の料理って私たちの口には合わなくって……」
「俺たちの里じゃ野菜か魚しかないんだよ。テーブルマナーを気にしなくていい肉料理をこの間頼んだんだが……臭み消しなのかやたらと香草の味がきつくてよ。里の連中に頼んで昼食も用意してもらうことにしたんだ。大きめのパンにゆでたり焼いたりした野菜を挟んだものと果物だけだがな」
「そうでしたか。ですがテーブルマナーは覚えておいても損はありませんよ? 勉強だと考え一緒にお食事はいかがでしょう」
「はい。私ももっとお話したいです」
「どうします、ふたりとも?」
「誘われちゃ、ね?」
「本当に田舎者だから基本からになっちまうが……公女様たちに教えてもらっていいものなのか?」
「気にしませんよ。では、私たちも含め5名分の昼食を用意していただきましょう」
そのあとは本当にプリメーラ公女様直々にテーブルマナーを教えていただきました。
いろいろと細かいところがあり大変でしたし使う機会があるのかは疑問ですが、確かに覚えておいても損はないでしょう。
またなにかの縁でプリメーラ公女様やイネス公女様にお目にかかることがあるかもしれませんし。
「皆様、初めてにしてはお上手でした。あとはこれを練習していただければ完璧になるのですが……使う機会があまりないでしょうね」
「せっかく教えていただいたのですが……そうなります」
「私たちの里じゃそもそも〝肉料理〟っていうものがないもんね」
「魚だって頼めばある程度手に入るだろうが滅多に食わねぇ。野菜と果物ばかりの生活だがそれで飽きないからなぁ……」
「そうなんですか? 皆様の持っていらした昼食というものに興味が出てまいりました」
「こら、イネス!」
「構いませんよ。ですが、僕も詳しくはないのですが地位のある方がそのまま食べるのはまずいのでは?」
「毒味役もおりますが皆様のことは疑いません。イネス、神眼も使っていますね?」
「え? 皆様を神眼で疑ってしまうのは……」
「だめですよ、イネス公女様。神眼は常に使うくらい慎重でないと」
「うん。私たちみたいな田舎者がこの街でうまくやっていけているのもそのおかげだからね」
「ひょっとしてシント様もリン様も……」
「はい。神眼持ちです」
「でも、神眼に頼り過ぎちゃだめよ? あと私たちが神眼持ちなのは内緒ね?」
「はい!」
うん、イネス公女様は元気ないい子です。
神眼は悪用すれば危険なものらしいですが、イネス公女様なら悪用しないでしょう。
「それで、昼食を分けてやる件はどうする? さすがに全部食べさせるのは食べすぎになっちまうと思うんだが」
「興味があるようですし少しずつだけでも食べていただきましょう。果物は元々そこまで多く持ち込んでいませんし」
「それもそうだな。というわけで、こいつが俺たちの昼食予定だったパンと果物だ。パンは多いだろうから切ってもらってくれ」
「わかりました。誰か、このパンを……一口サイズに切ってください」
プリメーラ公女様はほかの方にベニャトが出したパンを切り分けてもらい、イネス公女様と一緒に口の中に運びました。
すると、おふたりはとても驚いた表情を見せましたね。
「すごいです! お野菜なのに苦みがほとんどなくて甘い!」
「それにとってもみずみずしい……これが〝里〟の力……」
「そうなってしまいます。果物の方もどうぞ。甘くて美味しいですよ?」
「では失礼して……こちらもとっても甘いです!」
「本当に。うまさが凝縮されてできた果物ですね……これでは、私たちの国の食材でも口に合わないでしょう」
「そういうわけでもないのですが……肉料理はちょっと」
「普段食べないせいもあるのか独特の臭みがねぇ……」
「俺らドワーフ仲間も昔はたまに狩りをして鹿やイノシシを食ってたんだが、こいつらの里に行ってからこの野菜と果物を食べるようになって肉なんてどうでもよくなってなぁ」
「なるほど、パンもそれ自体に香りがついていて柔らかく美味しいです。これに慣れてしまっては香草で臭みを消した肉料理は厳しいでしょうね」
うーん、僕たち贅沢をしすぎているのでしょうか?
メイヤには散々甘やかされている自覚があるのですが……。
「プリメーラお姉様、この方々の里にあるお野菜や果物を輸入できませんか?」
「イネス、無理を言ってはいけません。あなたも食べたいのでしょうが、この方々の里は遠くにあるのです。今回はマジックバッグを使っているからこそ食べられるもの。今回だけと考え我慢なさい」
「……申し訳ありません、わがままを言いました」
「僕たちは気にしていませんよ。ただ、この野菜が流入してしまうのはまずいのでは?」
「そうですね。クエスタ公国は農業国です。その国が自分たちの国以上に品質の高い農作物を仕入れていると知られては面目が立たないでしょう」
「そうですよね。私たちの国でもこれを目指さないと!」
「ええ、応援しかできませんが頑張ってください」
「大変だと思うけど頑張ってね」
こうして昼食も終わり午後の時間も5人で話をすることに。
イネス公女様が出してきた話題は彼女の治療費についての話題でした。
「あの、プリメーラお姉様。私の治療費は高かったのではないでしょうか?」
「ああ、ええと……」
「神眼使い相手に嘘は通じませんよ、プリメーラ公女様。僕たちがプリメーラ公女様に要求したのはイネス公女様のことを大切にしてもらうことです」
「プリメーラお姉様が私のことを?」
「はい。プリメーラ公女様はあなたの治療費としてとても大きなものを用意してくださろうとしました。ですが、それをいただくよりは姉妹仲良く過ごしていただく方が僕としては嬉しいですから。リンもベニャトも反対しませんでしたし、それでいいのです」
「……嘘はありませんでした。プリメーラお姉様、本当にそれだけで私を治療していただけたのですか?」
「ええ、そうよ。私があなたを大切にすること、それが治療の条件。あなたが間違った方向に行こうとすれば私が容赦なく道を正すわ。だから、あなたは正しい道を歩んでね」
「……ありがとうございます。私たちの命を高く評価してくださり」
「気にしないでください。……それにお金はもらっても使い道がないのですよ」
「使い道がない?」
「私たちってベニャトが売っているアクセサリーでそれなりに稼いじゃっているんだけど……使い道がいまのところないのよね」
「ああ。俺たちの里じゃ街の金なんて必要ない。最初の頃こそいろいろ買いそろえていたがいまじゃそれも必要なくなってきた。ウォルクの店で買い取ってもらっているアクセサリーの代金が相当貯まってきててな……いい使い道を知らねえか?」
僕たちのその言葉に信じられないという表情を浮かべたふたりですが……プリメーラ公女様は僕たちの正体も知っていますし、お金の必要性がないこともわかるのでしょう。
意を決したように確認してきました。
「そのお金、私たちの国で使っていただけるのでしょうか?」
「そうしたいです。元々このお金はアクセサリーショップ、ヒンメルのウォルクさんからいただいているもの。この街や国にお返ししたいというのが本音ですから」
「それに私たちってほかの国に行かないのよね」
「それ以上にこの街以外にも行かねぇ。なにか案があるのか、プリメーラ公女様?」
「あります。ありますが……個人のお金で解決してもよろしいかどうか」
「なんでしょう。話だけでも聞かせてください」
「では……皆様は〝孤児院〟という場所をご存じですか?」
「〝孤児院〟……すみませんが知りませんね」
「俺は聞いたことがある。人の街で親がいなくなった子供を大人になるまで預かる場所だったな」
「ベニャト様の言う通りです。孤児院にも国の政策としてお金を配布しております。ですが、街や孤児の多さに比べてしまうと足りていないのが現状。私たちもなんとかしたいのですが、国政に絡むことになってしまうのでなかなか手を出せず……」
「ふむ。いいんじゃねえか? シント、リン」
「そうですね。親がいない子供のためならいい使い道でしょう」
「うん。私も親がいなかったし苦しい生活だった。でも、身勝手で一時的なことだとしても助けてあげられるなら助けたいな」
「よかった……これで、この街の状況も少しは改善できます」
「え? この街はそんなに状況がよくないのですか?」
「……正直よくありません。外国から訪れる者も多く、その中にはこの街に子供を置き去りにする者もいるのです。この街の行政庁もそのような者たちには目を光らせていますし、孤児院には国だけではなく行政庁からもお金が出ています。それでも足りないのが現状でして」
「わかりました。僕たちにできることであればできる範囲でお手伝いいたします」
「そうだね。ベニャトもいい?」
「俺たちが作ったアクセサリーで喜ぶ子供が増えるなら本望だ。なにがしてほしいんだ、プリメーラ公女様よ?」
「これから冬になります。子供たちに冬用の衣服と毛布を可能なだけ買い与えてはいただけませんか?」
「そんなことか。構わないぜ。持ち金で俺たちが使う分を除いたあとはすべてそっちに回してやる」
「それがいいね」
「ええ、いいでしょう。ほかに望みはありますか?」
「……厚かましいお願いですが、食料を買うお金が残っていれば食料も配布していただきたいです。多くの孤児たちは十分な量の食事ができていないと聞きますので」
食事、食事ですか……。
神樹の里の生産能力をフル活用すればいくらでも用意できますが、メイヤの許可がいりますね。
これは少し待っていただきましょう。
「食事については少しお待ちください。出所を明かさずときどき来るだけ、という条件でいいのならば可能かもしれません。里長の許可が出ればの話になりますが」
「私たちの一存じゃ決められないもんね」
「そういうことだ。衣服と毛布は手の届く範囲でなんとかする。食料については俺たちが里に帰ってから里長と交渉。ただ、俺も人里のルールには詳しくないが勝手にこういう真似をするのはまずいんだろう? どうすりゃいい?」
「そこの交渉は私……いえ、イネスに任せます。私も補佐いたしますのでお任せください」
予定外ですがお金の使い道は決定ですね。
あとはイネス公女様とプリメーラ公女様に交渉をお願いしましょう。