この世界から色が消えたのは、いつのことだっただろう。

 人の肌も、青々とした緑が宿る木も、色とりどりの花も、赤黄色の地も、透き通った川も、群青の海も。そして、露草色が広がっているはずの空だって。
 世界の全てが色を失って、単色になった。
 今、ここにあるのは一面のモノクロームのみ。


 いつの日か幼い頃、薫ばあちゃんから手渡された白黒写真の中のよう。

 「これがねえ、薫ばあちゃんのちっちゃい頃の写真だよ。今の凪ちゃんと、ちょうど同い年だねえ」

 薫ばあちゃんの表情を思い出すと思わず笑みが零れるけれど、あれは、あくまで写真の中だけの光景だ。
 薫ばあちゃんの幼い頃だって、当然ながら世界は色で溢れていた。
 昔も今も変わらずに、そしてこの先も永遠に、沢山の色で溢れていくはずだった。

 それなのに、この世界から色が消えたのは、いつだっただろう。
 上手く思い出せない。しかし、

 〈誰1人として取り残すことなく、全ての人を平等に、健康に、些細な悩みすら持つことなく、尊重されながら、自由に日々を過ごせるように。全ての人が安心して過ごせるように留意する〉

 そんな希望を引っ提げて、世界から様々な概念が消えたんだ。

 病気という概念が消え、永遠の時間を得た。

 自然災害という概念が消え、永遠の空間を得た。

 欲求という概念が消え、永遠の平穏を得た。

 人種という概念が消え、世界は色を失った。


 これは私たちが多方面から進歩を遂げすぎた結果なのかもしれない、と、そう思うけれど、真の意図は分からない。

 私以外の人は皆、
 「色があった世界より、色をなくした世界の方が平和で平等で幸福だ」
 口々にそう囁いていた。